第17話

「なりすましの可能性、高いっしょ」

 昼休憩の時、社食で同期の石川が言った。

「大臣の息子の件、ネットニュースでも騒がれてるじゃん。面白半分のなりすましじゃね」

「ネットニュースで」

 そこへ「アネゴ」こと審査部の高島先輩が現れた。

「あの、永田大臣から何か来たって」

「あの」

「二、三日前、永田大臣の息子くんがSNSで母親の悪口書いてて、永田大臣の息子であることを記憶から消したい、て言って、炎上してたから」

「僕、政治関係詳しくなくて」

「でも、本人かどうかわかんないっすよね」

「永田大臣って今年離婚したんだよね」

 話に入ってきたのは店舗運営課の片倉先輩だ。

「んで、子供二人は父親の方に行っちゃったの。今は永田大臣、ひとりで住んでるらしいよ」

「離婚したのは知ってたけど、そうなんだ。子供たちが男親にって珍しいわね」

「珍しいんですか」

「今は大体、共同親権が基本だけど、監護の親権行使は女親に行くのが多いわよ。永田大臣は経済的に不安もないし、なんでまた」

「旦那の実家が会社やってるから跡取りとしてあっちで育てたいって話もあったとか言われてるけど、まあ、本当のところは他人にはわからんからねえ。でも、やっぱアレもあるんかな。去年あたりに騒がれてた、永田大臣のスキャンダル」

「ああ、アレ。確かに、印象は悪くなるわねえ」

「なんすか、アレって」

「ふ・り・ん」

「根も葉もない噂だって大臣は言ってるんだけどね。辞職しないとこを見るとたぶんシロなんだろうって気がするけど、実際はどっちだっていいのよね。政敵が大臣に悪いイメージつけたいだけなんだから。ただ子供たちにとってはショックなんじゃない」

「そういうこともあって長男くんが荒れてたのは有名な話だよ。今までも度々母親の愚痴、言ってたから。今回は、こんな人間の息子であることが恥だ、忘れたい、ってSNSで言って、炎上したんよ」

「はあ……」

「難しいお年頃だからねえ。まあ、敵が多いタイプの政治家だし、学校でいじめられたりしてたのかもしれないしねえ。前にも、大臣は家庭を顧みず、子供の世話も家のことも全部、家政婦さんにおまかせ、みたいなこと週刊誌に書かれてたしさ」

「別にいいのよ、家のことやらなくったって、働いて稼いでるんだから、家政婦さん雇っていいじゃない」

 僕の両親も二人とも働いているが、どうだったろう。あまり気にしていなかった。

「それで、子供たちが母親と暮らすのは嫌だと拒否したとかかしら」

「そうかもね。でもさ、離婚の原因は知らんけど、子供からそんなふうに言われちゃうの、やだよな」

「まあねえ……。で、その要請、断ったんでしょ」

 高島先輩がコーヒーの最後のひと口を飲み干して言った。

 僕は即座に答えた。

「ええ、もちろん。マニュアル通りに」

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