第13話

 ようやくひと段落して、昼休みに社食に行くと、皆がタブレットを囲んでいた。

 僕も覗き込むと、大臣のニュースをやっていた。建物に入ろうとする大臣を取り囲む報道陣のマイク。

「大臣はQ社で記憶を消去したんですか」

「お答えできません」

 大臣は歩きながらぶっきらぼうに答え、足早に立ち去る。

「やってないって、はっきり答えろっつーの」

 片倉先輩が画面に向かって言った。

「ほんとよ。なんでちゃんと言わないの。こっちはとばっちりで迷惑してるんだから」

「社として何かするって」

「後で公式発表するらしいわ」

「ったく、次の選挙でこいつには絶対入れねーからな」


 夕方になって、我が社が正式にコメントを発表した。

「Q社では記憶消去制限法を遵守している。念のための確認作業を行なった結果、大臣の記憶消去をしていないし、申込も受けていないことが確認された。また、当社が関わっているような大臣の発言に対して、大臣サイドに抗議した。よって、今後、我が社に対するデマ、不当な嫌がらせ等に対しては、法に照らし合わせ対処していく」

 といった内容だ。どうやら我が社はこの件に一切関わっていないことが確認できたらしい。

「会社員の帰宅時間に合わせて発表したのよ」

 隣の席から大森さんがこそっと言う。

 僕はその辺の事情に詳しくないから知らなかったが、会社側はそういうところまで考えているのだそうだ。

「ああ」

「でも安心した。私が関わってないってわかって」

 大森さんは本当にほっとしたように両腕を挙げて伸びをした。

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