第10話 想定外

 特にこれと言った騒ぎや進展もなく、そのまま放課後に。

 ただ一つだけ変化があるとすれば……


「篠坂さん、今日はどうしたんだろ?」


「さっきから話し掛けてもなんか上の空だったよ」


 俺が朝に不意に頭を撫でて以降、篠坂さんはずーっとこんな感じで上の空で何度か話し掛けられてやっと気付く程。

 俺が近くを通るだけで耳まで赤く染めて顔を俯かせてた。


「……はぁ、兄さん」


「それぐらい分かってる」


「ただこれは……重症過ぎますね」


 流石の愛香もここまでだと思ってなくて、苦笑を浮かべるしかなかった。これはバレても仕方ないよな。


「兄さんは先に帰ってください。篠坂さんを家までお送りするので」


「帰り道には気を付けろよ?仮にも令嬢だからお前ごと狙う奴は居るってことぐらいは」


「大丈夫です。護身術なら身に付けてますので」


 そういう問題って訳じゃないんだけど……まあいいや。


「今日は一足先に帰るかな」


 鞄を持って立ち上がると篠坂さんとふと目が合う。まあすぐに逸らされたが、何かを伝えようと思ったのかもしれない。

 でも今日は彼女の傍に居ない方がいいと思い、教室を飛び出していった。







 ☆☆☆









 特にこれといった騒ぎはなく、昇降口ではなく図書室へ足を運んだ俺。何か面白そうな本はないかと探しに来た。

 丁度受け付けに人が居た。何か聞いてみるか。


「あのーすいません。お勧めの本とかありますか?」


「あっ……はい。少々お待ち――ってあれ?優斗?」


 突然目の前に居る文学少女が俺の名前を呼んだのだ。

 ただこの声には聞き覚えがあり、同時に嫌な予感が頭に過った。


「……なんでここに居るんだよ。未玖」


 俺が中学時代に付き合っていた元カノこと、五条未玖ごじょうみく。中学時代に愛香が孤立するきっかけを作った元凶でもある。


「私もここにしたんだよー?優斗に逢えるかなって。えへへー」


 元気一杯で甘えん坊で人一倍寂しがりな未玖が、何故か図書委員になっていて、これも俺の影響だろう。

 ったく、まさか未玖が居るなんて……。


「ねえ優斗。やっぱり私達ちゃんとやり直そ?やっぱり諦め切れないの……今度は愛香ちゃんと仲良くするから」


「……わりぃけど、俺はもう二度と彼女は作らないって決めたから」


「えっ……?」


「そういうことだから、なにかお勧め教えてくれ」


「で、でも……どうしてそんな」


 俺は軽く彼女を睨むと、酷く怯えた顔で顔を俯かせた。


「愛香をあそこまで追い込んだ奴と仲良くする気はない」


「っ!………………ごめん、なさい」


 本当ならこいつと楽しく付き合えてたんだろうな。

 贔屓目なしに可愛いし、ちょっと我儘だけどバカ。だけど本当は自頭は良い魅力的な女子。

 あのさえなければ、な。


「愛香ちゃんは……元気?」


「だったらなんだ」


 さっきよりきつめに言うとしゅんと激しく落ち込む。


「……ごめん」


 アイツは一度死にかけた。いや、正確には死のうとしてたが正しいか。

 偶然遊びに来てた秀太のお陰で大事にならずに済んだものの……その分出来た心の傷の代償は非常に大きく、愛香は身内以外信じられなくなってしまった。


「もういい。自分で見つけてくる」


 そう言い残して、俺は本棚の方へ足を運んだ。

 未玖は何か言いたそうにしてたが、先程のこともあってかずっと俯いたままで、アイツが今何を考えてるのかまでは分からない。

 ただ言えることはこの出会いで厄介なことにならなければ良いと。

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