第9話 双子の兄妹
愛香に喧嘩を吹っ掛けられ、お互い睨み合っていると篠坂さんは少し寂しそうに俺の制服の裾をきゅっと掴んでた。
心なしか頬が膨れてるようにも見えた。
「……篠坂さん」
「お、怒ってないですよ。怒ってなんか……」
その姿がどうしてもまだ幼い頃の愛香によく似ていた。
だから、つい頭を撫でてしまう。
「永谷……様?」
「えっ?あ、いや……!こ、これはだな……っ!」
慌てて手を離してなんて言い訳しようかと考えたら、赤く染まった顔で俺を見つめてくる篠坂さん。
目を離そうにも離せそうになく、暫く見つめ合っていると今度は愛香がむくれていた。
「……お兄ちゃん?」
「え……な、何だ?」
「ん、こっち」
ぽけーっとしてる篠坂さんをその場に残し、愛香が小声で話し掛けてくる。それも限りなく小さな声で。
「お兄ちゃん。もしかして篠坂さんに惚れちゃったの?」
「はぁ?」
「だって篠坂さんを見る目がさっきとは全然違ったし……」
「あぁ、それか。昔愛香みたいだな――でっ?!」
思いっきり足を踏まれた。
「言っとくけどそれは他の人には言わないでね?言ったら……ふふっ、分かってますよね?」
「言わねえってば……お前が俺に甘えん坊だなんて事」
「分かれば良いんです。分かれば」
愛香にとっては兄に甘えん坊な自分が恥ずかしいようだ。
小さい頃のように素直になれば良いのに、あの頃のようにまたお兄――いぃっ!?
「兄さん?」
顔がマジなんだけど……。
「じ、冗談だよ……ははっ」
うん、これ以上からかうのは止めよう。今度は命がなくなる可能性があるわ。
ちなみに篠坂さんはまだぽーっとしてて、戻ってくるのにそんな時間は掛からなかった。
☆☆☆
そして時は過ぎ、お昼休み。
篠坂さんはどうやらグイグイと来るのは学校の外だけのようで、昨日みたいに人目を気にせずに腕に抱き着いたりすることはなかった。
「おーい優斗ー、飯行こうぜー」
「おー今行くー」
俺は鞄の中から財布を取り出して学食へと向かう。
廊下ですれ違う度に女子達は振り返ったり、その場でこそこそと噂話をしたりしていて、少々居心地が悪かった。
「相変わらず秀太はモテモテだな」
「いやどう考えても優斗だからな?俺じゃねえからな?」
そう俺達は変に目立つせいで、時折女子達から声が掛かることが多くあった。
中学時代はそれが元で少々面倒なことを起こしたこともあって、俺は伊達眼鏡をしてまで素性を隠すようにした。
「……なあ、そこまでする必要あるか?折角俺達高校生なんだから青春を謳歌しようよ」
「何度も言ってるけど俺はこのままで良いんだよ。変に目立ってまた愛香を困らせたくないから」
「流石にもう大丈夫だと思うけどなぁ……」
「この三年間は穏便に過ごしたいんだ」
俺が女を拗らせすぎて、それが原因でまた愛香を孤立させたくないから。
まあそんなアイツを救ったのは今俺の隣に居る秀太なんだけども……昨日許嫁が居るって理由でもうフッちゃったんだよな。折角お似合いだったのに。
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