第8話 騒然な早朝 #那奈視点

 翌朝、早瀬によって起こされてしまいます。折角永谷様との熱い夢を見ていたのに……。


「んぅ……っ、何ですかもう」


「お嬢様、早くお着替えを」


「まだ時間には余裕があるじゃないですか」


 ゆっくりと起き上がり、次第に意識がはっきりとして大きく身体を伸ばしてると、何やらいつもより屋敷内が慌ただしく感じます。


「早瀬、何かあったのです?」


「……非常に申し上げにくいのですが、屋敷に賊が侵入しまして」


「それで捕まえたのですか?」


 早瀬の顔色が暗くなり、恐ろしいことを言い出しました。


「その逆で……逃げられてしまいました。それで奥様の大切な宝石が賊によって盗まれたのです」


「ど、どういうことですか……!?」


 我が篠坂家の警備は何をしているのです?!万全に備えたとお父様が仰っていたのに……。


「どういう訳か、カメラにも映ってなくて」


「そんな……っ!どうやって……!まさか内通者?!」


「私共もそう考えたのですが……誰も思い当たる節はないと」


 カメラの位置まで把握されてはなす術が……ん?カメラ?

 そういえば昨日、永谷様に屋敷の中を案内して隅から隅までお教えしたような……。


「……早瀬、私に思い当たる人が」


「奇遇ですね。私もです」


 信じたくはないのですが……私達はそれに賭けるしかありませんでした。









 ★★★











 自室で朝食を取り終えた後、制服に着替えて学校の準備の最中に香坂がやってきます。


「お嬢様、お時間です」


「分かりました。では早瀬、頼みましたよ?」


「承りました」


 念の為早瀬に永谷様の身辺を調べて貰い、疑いたくはないですが……無関係であって欲しいです。

 そのようなことをするようなお方ではないと。


「結果は帰ってから聞くこととして、今は永谷様に一秒でも早くお逢いしたいです……」


 あの凛々しいお姿を間近で拝見出来るだなんて……昨日の私、ぐっじょぶです!

 それに今日は妹様とご一緒だとか?ふふっ、どのような方なのでしょうか?気になって仕方ありません!


「それでは香坂、行って参ります」


「はい、道中お気を付けて」


 本当なら同い年である早瀬も学校に連れていきたいのですが、今日は仕方ありません。

 我が篠坂家の中でも勉学は充実しておりますから。


「ふふっ」


 私は急ぎ足で待ち合わせの場所へ向かいます。

 五分程移動したところで永谷様のお姿があり、お声を掛けようとした時でした。お隣の女性の方が永谷様とお話を。

 胸の奥から黒い感情によって塗り潰されていきます。


「あ、おはよう。篠坂さん――おわっ!?」


 私は耐えられずに、彼に抱き着いてしまいます。


「あの……篠坂さん?どうしちゃったのかな……?」


「私というものが居ますのに……お隣の方に現を抜かされるなんて……」


「へっ?」


「……屈辱です」


 永谷様のお隣は私だけのものです!誰にも譲りません!


「あぁそういう……紹介するよ。隣に居るのは俺の妹の愛香で俺達双子なんだ」


「へっ……?お、お二人は兄妹なのですか?!」


「誠に遺憾ながら私達は兄妹です。兄がお世話になってます」


「遺憾ってお前なぁ……」


 み、見えません……兄妹に見えません!!


「ああ顔が似てないって思ってるでしょ?俺は母親似で愛香は父親似。普通は似るものなんだろうけどね」


「どういう事か、私達は例外だったみたいです」


 何ですかこの息ぴったりな感じ……これが兄妹なのですか……。


「後俺達は互いの考えてることがお見通しっていうか、筒抜けっていうか……それでよく喧嘩しちゃうんだよね」


「大体兄さんが悪いんです。今日だって私が起こさなかったら危うく遅刻し掛けたんですよ?」


「うるせえなぁ、昨日は疲れたんだよ」


「うるさいとはなんですか!私が起こしたから遅刻せずに済んだのに……!」


「んだと?!」


 ……兄妹喧嘩、って奴でしょうか?お互いが睨み合ってて……本当に似てらっしゃるんですね。

 私には兄妹は居ないので、少し羨ましいです。

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