第5話 箱入り娘
篠坂那奈さんから告白を受けた訳だが、彼女の事を知ってるのはプロフィールぐらいであまり知らない。
彼女だって俺の事をあまり知らない筈なのにどうして?
「一応聞いておくけど……どうして俺なんだ?」
「……やっぱり憶えてませんか」
憶えてない?俺は過去に彼女と出会ったことがあるのか?でもこんな絵に描いた美人ならちゃんと記憶してるけど……。
「仕方ありませんよね……私、当時は眼鏡を掛けてましたので」
眼鏡……?あっ!
「もしかして入試の時の……?」
彼女は再びぱぁっと明るく目を輝かせて、嬉しそうな表情を浮かべていた。
それにその顔にどこか見覚えがあった。
「お気づきになりましたか?」
「あの時に助けたのがまさか篠坂さんだったなんて……」
ここに入試を受けに来た際、自身の受験場所が分からずに困り果ててたところを俺が助けた事があった。
その時は俺も時間がなかったから、名前すら聞かず仕舞いだったことも同時に思い出す。
「改めてあの時はありがとうございました。あなた様のお陰でこうして今があると思うと……これはもう神のお導き」
「は、はぁ……」
「そして私は将来は貴方様の伴侶として、この先も――」
「ち、ちょっと待て!!」
何いきなり言い出すんだこの子は?!伴侶って考えが飛躍しすぎだろ!!
「俺達まだ学生だし、そもそも篠坂さんのことあんまり知らないんだけど……」
「それはこれから知って頂ければ――!」
「分かった。分かったから落ち着いて、な?」
改めて篠坂那奈さんのプロフィールを説明しよう。
篠坂財閥の社長令嬢で一人娘、誕生日は九月二十日。
父は源十郎、財閥の現当主で政界にも顔を利かせており、今の日本を影ながら支えてくれている。
母は美優、元売れっ子女優で主役を何個も貰ったりした事のある大物女優。源十郎との結婚を機に芸能界から引退して、その後の彼女を知る者は居ないと称される。
なんで俺はここまで知ってるって?それは裏の顔の時にでも。
「えっと……私達は運命の赤い糸で結ばれているのではないのですか?」
「……は?」
「お母様が仰ってました!これは運命だと……!」
「……一つ聞いておきたいことがある。出逢ってすぐ求婚ってどう考えてもおかしいってこと自覚してる?」
「ほぇ?そうなのですか?」
俺は顔をひきつらせて、大きく溜め息を吐いた。
自覚がないってどんだけ箱入り娘だったんだよこの子……。
「何か変なことでも……?」
「十分変だよ……一般人の俺からしたら」
ただの一般人なら、ね。
「……?よく分かりませんが、永谷様がそう仰るのなら」
はぁ……先が思いやられる。
これも彼女のいう運命なのかね……もしそうだとすれば、嫌なことになっちまった。
「まあとりあえず帰ろうぜ。あまり遅いと怒られるだろうし」
「はい!」
周りに花咲くぐらいに笑顔満点の篠坂さんは俺の腕に抱き着いて、腕が大きな双丘に包み込まれていた。
やっぱでけえな……胸。そうじゃなくって!
「あの篠坂さん」
「はい!何でしょうか?」
「もう少し離れてくれないかな……?近すぎるっていうか」
こうも押し付けられてしまうと、俺だって男だから意識せざる得ない。
だけど彼女はお構いなしに更に力を込める。
「嫌です……この手を離せばもう会えない気がして」
彼女は寂しそうに呟くと、俺は再び大きく溜め息。
「明日も会えるだろ。同じ学校なんだから」
「分かっては居るんですけど……どうしても」
篠坂さんは多分寂しいんだろうな、折角こうして会えたのにって。
はぁ……少しぐらい我儘に付き合ってやるか。
「分かった。家に着くまでなら」
「……!」
「嫌だったか?」
「そ、そんなことは……!」
ははっ、いちいち顔真っ赤にして可愛いなこの人。
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