第8話「嘘」(あさひside)

 「嘘でしょ・・・・・・」

 私は血を流して倒れる愛花を見て一人呟く。

 「やっぱり、立川が犯人なのかな」

 「ああ、これで彼が犯人だと確実になったな」

 楠谷が言うと、「どうして・・・・・・」と私は涙ぐみながら言う。

 ――その時だった。

 ――誰? この笑い声。

 周囲を見渡すが、誰も笑っている人なんていない。

 そりゃそうだ。

 人が殺された現場で、笑う人なんていない。

 ――それじゃあ、誰なの?

 目線を愛花に向ける。

 

 ――背中が、震えてる?

 

 ゆっくりと近づく。

 え。

 なにこれ。

 愛花から流れる血って・・・・・・、ゼリー状なの?

 それに。

 背中に入っているの、何なの?

 え?

 「よっこらっせっと」

 

 彼女は何もなかったように立ち上がる。

 「え? え?」

 思わず戸惑う。

 そりゃそうだ。死んだと思った人物が実は生きていたなんて。

 「驚かせてごめんね」

 彼女はおどけて見せる。

 思わず私は彼女に抱きつく。

 「ど、どうした?」

 「いやだって・・・・・・」

 何だろう。この言葉では上手く言い表せない何かが、私の心を満たす。

 

 背中に、温もりのあるものが伝わる。

 「ごめん」

 愛花が言ってくれたのを、私は「うん、うん」と頷く。

 暫くの間、ゆっくりと時が流れる。

 さざ波の音。

 その音が、私の鼓膜に静かに響かせる。

 

 「もう良いか?」

 楠谷が言う。

 「ええ」

 愛花が言うと、「え? 刑事さんも知っていたの?」と私が言う。

 「ああ。立川が犯人という証拠が掴めていない中、彼女が囮になってくれたんだ。『凶器を見てしまった自分なら、きっと証拠が掴める』。ってな」

 楠谷が愛花にアイコンタクトを送ると、彼女が頷く。

 「なーんだ。心配して損した」

 私が拗ねて元の場所へ歩き出すと、愛花が「ごめんって」と追いかけてくる。

 「これで彼のこと、捕まえられそうかな」

 「多分。だけど、詰問はしない方が良いと思う」

 「それって」

 私が言うと、愛花は何も言わずただその場を立ち去った。

 ――足跡に、本物の血を手から流しながら。

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