第7話「彼が犯人⁉」(あさひside)

 「うーん。今のところ考えてもアイデアは浮かんでこないなぁ」

 愛花が言うと、「そうか」と楠谷が言う。

 数分前、私たちは楠谷刑事に呼ばれて海の家で話をしていた。楠谷刑事曰く、事件についての考えを聞かせて欲しいとのことだった。

 なぜ立川だけ呼ばなかったのか気になったが、彼もあまり気に触れなかったので特に考える必要は無かった。

 「あ、そうだ。追加で情報を一つ教えると」手帳をペラペラと彼は捲る。「被害者、やはり十数年前でこの場所で亡くなった人の姪っ子だった。そして、これはあの探偵から聞いた話だが、立川という男は十数年前に捕まった被疑者の甥っ子とのことだった」

 「ふむ。刑事さんは彼のことを被疑者と見ているんですか?」

 私が訊ねると、彼は「ああ」と言う。

 「これがもし復讐による犯行となれば、彼を被疑者候補として真っ先に話が聞かれることになる」

 「だけど、まだ行われないってことは・・・・・・」

 「ああ。まだ確証が得られていないってことだ」

 「うーん」と愛花が唸る。

 「どうした?」

 「いや・・・・・・。もし立川が犯人だとするなら、どうしてワトソンに故人を探す頼みをしてくるかなって」

 「どういうことだ?」

 「一二ヶ月ぐらい前に彼から相談があったんです。ワトソンに人探しをして欲しいって、写真つきで頼まれて、それでお願いしたんです。だけど、その人は既に亡くなっていて、かつ、〝祖父〟とあの場では言ったのに実際では〝叔父〟だったんです。これって何か意味があります・・・・・・?」

 「うーん。もしかしたらあるかもな。だが、それでもまだ確証が得られん。彼が確実にあの女を手に掛けたという証拠があればな・・・・・・」

 「それだと、やっぱりさっき見せてくれたあの証拠じゃないですか?」

 「あ?」

 「ほら、現場に落ちていたっていう破片みたいな物」

 「ああ、あれか。鑑識に調べさせて貰ったら、宝石の一部ということが分かった」

 「宝石?」

 私が首を傾げる。

 「ああ。だが、何の宝石の一部なのかまだ分からん。もう少し経てば結果が来るだろう」

 彼は「じゃあまた後で」とその場を立ち去る。

 「本当に、彼がやったのかな・・・・・・」

 私が言うと、愛花が「多分、そうだと思う」と言う。

 「決め手に欠けるけど、刑事さんの言うとおり、立川が犯人だと思う」

 「なんで?」

 「彼、事件に遭遇したときいなかったし、それに遅れてやってきたし・・・・・・」

 「その疑う気持ちも分からなくはないけど、それだけで疑うって言うのも・・・・・・」

 「それに、見たの」

 「何を?」

 私が首を傾げながら言うと、愛花が私の耳元で囁く。その時に当たる愛花の胸が柔らかかった。

 ――こんなことを口に出したら猿轡を嵌められて拷問される・・・・・・。感情を伏せておこう。

 「彼のポケットに、血の付いた包丁の持ち手が少しだけ出てたのを」

 「えっ」

 衝撃的なことに私は驚く。

 ――もし本当に事件に使われた包丁を、彼が持っているなら。

 間違いなく今回の事件の犯人は、立川。

 海風が微妙に寒い気がした。


 ◇幕間

 

 当初、俺はあさひを狙って殺そうと思った。

 だが、あれを見てしまった彼女に俺は狙いを変更した。

 彼女を殺すつもりなんてなかった。

 だけど、仕方なかったんだ。

 見てしまったんだ。

 そう、見てしまったから、仕方ない。

 俺は包丁を投げ捨て、腹から血を流す彼女に屈む。

 「・・・・・・な、何を、し、したか・・・・・・、分かって」

 息絶えた彼女を見た俺は、少しだけ息を整える。

 ――ふぅ。

 にしては、彼女、良い体だな。

 ちょっと触っても平気か。

 俺は人間の本能を解き放ち、彼女の体――胸、脚、手、尻など女性にとって急所なところを撫でていく。

 ――良い気持ちだ。

 俺は立ち上がり、哀れな姿となった彼女を見た。

 

 ――じゃあ、またな。愛花。

 

 男はその場から立ち去った。

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