第35話 東大に入学できた頭のいい連中がもう人生が確約されたと考えてるのはもったいないし危ういよな
さて、東大の入学式も終わり、学校生活も本格的に始まった。
まず諸手続きとクラス分けだ。
東大に入ると、まずは全員教養学部に所属して学ぶことになるのだが、一年生と二年生の前期課程ではクラス分けがある。
東大のクラス分けは、高校までのクラス分けと似ている部分もあれば、大きく異なる部分もある。
クラス分けは、受験の時にもあった理Ⅰや文Ⅱといった科類と英語一列や入学手続きのときに決めた入学後に履修する初修外国語で選択した外国語の種類などだが、英語一列の場合は入学試験の点数で分けられ、最上位クラスは授業も英語で行われたりもする。
ちなみに北条さんと斉藤さんは最上位クラスに入ってるが俺は入ってない。
これはクラスの学生の学力が大きくバラついていては、授業が非効率になるかららしい。
まあこの辺りは高校の時も成績でクラス分けされていたし、なにもおかしくはないな。
クラスは25人から40人ほどであることが多いようだが、これは講義室の収容人数の関係もあるらしい。
ちなみに人数の関係で文Ⅰ文Ⅱと理Ⅱ理Ⅲは、それぞれ2つの科類が合同でクラスを構成する。
まあ、俺は理Ⅰで北条さんは文Ⅱ、斉藤さんは文Ⅲなのでクラスはバラバラだ。
東大はそもそも女子の入学比率が少ないのだが、文Ⅲはそれなりに女子もいる。
逆に理系は全体的に女子はごくわずかだ。
なので事前に懸念したような俺にすり寄ってくるような女子はいない。
だが、北条さんや斉藤さんはめちゃくちゃ人気があるらしい。
なんかもう恥ずかしいなあと思いつつ、北条さんや斉藤さんは大丈夫かなという気もする。
でまあ、クラス分けが何に使われるかといえば、前期課程の必修の授業は、同じクラスの人間でまとめて行われる。
この中は高校までの時間割と同じだな。
初対面の東大生同士で自己紹介するときにも、科類と選択している初修外国語をセットで名乗るのが通例らしい。
他にもクラスでは、レクリエーションや飲み会などで交流を深めたり、一緒に駒場祭や五月祭などのいわゆる文化祭に出店したりもする。
大学では自由である反面、友達がつくりにくいので、友達作りができるようにするためクラスで分け、接触の機会の多い人間を作るきっかけにしてるわけだな。
ある意味、大学で学ぶことにおいて友達作りは一番重要なことでもある。
とはいえこれが理由で学校内での派閥ができやすくなったり、それは社会に出てからにも関係してくるから良い面だけでもないけどな。
なおクラスは、2年生も共通なので、同じクラスの1年と2年の間では先輩後輩としての関係性が存在したりもする。
高校だとクラスよりも部活で上級生や下級生が同じ活動をすることで仲良くなるのに似ているな。
そして二年生が新入生に、同じクラスに割り振られた新入生同士の顔合わせや自己紹介の場を設けたりする。
まあそんな感じでクラス分け終了後、サークル勧誘活動である通称”テント列”が行われる。
「テント列」とは、諸手続きを終えた新入生を待ち受ける、サークル勧誘のために立てられた長い長いテントの列のこと。
これとは別に後日サークルオリエンテーションという勧誘&新人歓迎会はあったりするのだが。
まあそれはともかく諸手続き名物であり、一度に多くのサークル活動を目にすることのできる機会ではあるのだが、テント列を構成するサークルは運動会系サークルを中心とした一部のサークルに留まるらしい。
まあ俺たちはそれにはあまりかかわらずにいたが居酒屋での飲み会に誘われた俺はそれに参加している。
本当なら20歳未満の未成年が飲酒をするのはだめなはずなのだが、大学や会社などの新人歓迎会では普通に酒を飲むんだよな。
東大なんかはお硬い人間が多そうな気がしていたが、普通に飲酒はしてるしそんなものかもしれない。
でまあ、自己紹介を始めると皆氏名に選択した科類や初修外国語、出身校などを言っていくわけだが流石に名門進学校と言われる東京の高校出身者が多い。
日比谷高校、戸山高校、立川高校、国立高校、武蔵高校、西高校、東京教育大学附属高校、東京学芸大学付属高校、後は私立だと麻布高校や開成高校などの優秀な学生を独占している高校だな。
他にも奈良県の東大寺学園やら兵庫県の灘高校やらもいる。
国立大学だと学費が安いので苦学生も多いというイメージがあるが、実際は裕福な家庭のほうが名門進学校に入学するための塾や家庭教師などの教育サポートの機会が設けられるからな。
そういう点でやはり地方生まれの地方住みのほうが不利なのは否めないだろう。
音大や美大などの芸術系大学もそうだが結局は親の財力は進路に大きく関わるのも事実だろう。
そしてそういった出身高校を言うたびに周りから”名もーん”という合いの手が入る。
これは六大学の応援団における自己紹介でのお約束らしいが、サークルやクラスにおける自己紹介でも使われていたりするらしい。
そして紹介の順番が俺にも回ってきたので俺もやる。
「俺は前田健二。
科類は理Ⅰ、初修外国語はドイツ語。
出身高校は千葉県の千葉経済高等学校情報処理科」
俺がそのように出身高校を言うと周りは静まり返った。
そして”千葉経済高等学校?””聞いたことないな”などというヒソヒソ声が聞こえてくる。
「あー、この高校出身の東大合格者は今年が初めてだ。
俺の他に女子が二人だけどな。
一応最近は高校野球や高校サッカーで有名になってるとは思うんだが」
俺がそう言うと野球部希望らしい男子が、思い出したように言った。
「ああ、たしかにここ最近は春夏の甲子園の優勝常連校になってる高校だな。
トレーニングやローテーションにアメリカ式のシステムを取り入れた結果急成長したと聞いている」
そしてその男子生徒も自己紹介をする。
「僕は
科類は理Ⅰ、初修外国語はドイツ語。
出身高校は千葉県の千葉高校で一応野球部に所属していた。
もっとも部員が足りず、実質的な部活動はほとんどでできなかったが」
「大槻くん、科類は理Ⅰ、初修外国語も同じだし出身の県も同じようだからこれから仲良くやっていこうぜ。
よろしくな」
「ああ、こちらこそよろしく」
どうやら親しくなれそうなやつがいてよかったぜ。
それから将来の進路希望を聞く段階になったが、理系だと大学院への進学希望者が意外と多く、大学卒業後就職するのは半分程度らしい。
まあ理Ⅲから医学部へ進むやつは医者を目指すやつが多いけどな。
しかし、全体で言えば国家公務員や日銀のような政府や省庁直轄に近い認可法人もかなり多い。
あとは総合商社、大手銀行や証券、MTT、西芝、日三、NALのような半官半民や政府の強い支援がある大企業。
後は裁判官、検察官、弁護士などの法曹界だな。
しかし東大に入れる頭の良さがあるのに就職先はその頭の良さを発揮できる機会があまりない前例主義の強い場所が多いのはもったいない。
もっとエンジニアや研究者等の技術職・研究職に進んでもらったほうがいいはずなんだが、日本は技術職・研究職では食ってけないくらい薄給だしな。
年功序列の制度が根強く残る日本は才能や能力に見合った機会や報酬が与えられることが諸外国と比べると圧倒的に少ないのが実情だ。
日本は数学と科学の分野で世界トップクラスの成績を収めた高校生の割合で世界でもかなりの上位なのに、科学、技術、工学、数学を専攻した大学卒業生の割合はかなり低い。
さらに日本では博士課程まで進むと就職が無くなる、だから修士で就職へ逃げるのが正解みたいな風潮も強い。
そりゃ日本が成長しなくもなるわけだ。
そういう風潮を改めるためにも、技術職・研究職として有望そうな奴は在学中から高給で引き抜きをかけておこう。
後、東大に限った話ではないらしいが旧帝大の医学部などの教育体制は、本来研究職向きで臨床職向きではないらしい。
稼げないから研究職ではなく開業医になってもヤブだなんだと言わてるのもなんだかなという気もする。
イギリスや北欧、それに中国やインドなどはエンジニアの地位が高く、医師の地位が低いので医師になりたい奴は少ないらしいけどな。
アメリカの場合は医師の場合でも実力主義なので、名門大学を出たからと言って食っていけるわけでもないようだし。
本当に東大に入学できた頭のいい連中が大企業やら公務員やらに就職できればもう人生が確約されたと考えてるのはもったいないし危ういよなと思うぜ。
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