第34話 やっぱり高校と大学はだいぶ違うが、大学の在り方も変えていくべきだろう

 さて、東大の入学式がある4月12日がやってきた。


 斎藤さんが入学式へ出かけるための準備を手伝ってくれているので俺は聞いてみる。


「入学式ってどっちのキャンパスでやるんだっけ?」


 俺がそう聞くと斎藤さんは苦笑しつつ言った。


「送られて来たパンフレットに場所は書いてあったでしょ?

 東大の入学式は日本武道館で行われるわよ」


「ああ、そういえばそうだっけ。

 着ていく服って式典だから礼服のほうがいいのかな?」


 俺がそう聞くと斎藤さんは再び苦笑しつつ言った。


「普通の公立大学入学生は礼服なんて持ってないわよ。

 私もリクルートスーツで行くつもりだし、普通のスーツでいいはずよ」


「それじゃあ100万円くらいの安めのスーツで行くか」


 俺がそう言うと斎藤さんはため息をつきながら言った。


「あなた、大分おかしいことになってるわよ。

 100万円くらいの安めのスーツって、普通はその十分の一くらいのはずなのだから」


「普通は10万円くらい?

 あ、うーん、そうかもな。

 なんせ俺、式典やらお偉いさんに会うだので使う、フルオーダーのスーツしか持ってないし」


 俺がそう言うと斎藤さんは再びため息をつきながら言った。


「はあ、もうちょっとTPOを考えて服を用意したほうがいいわよ。

 あなた、必要最低限しか服を持っていないでしょう?」


「あ、うん、確かにそうだな。

 高校と違って大学は制服もないし、スーツだけじゃなくて私服ももう少し買ったほうがいいかもしれないな」


 そう考えてみると高校と大学は本当に違うよな。


 そんなことを考えながらネクタイを締めていると斎藤さんがネクタイを直してくれながら言った。


「ほらネクタイが曲がってるわよ。

 入学式の日くらいはしゃんとしなさいな」


「ん、ごめん。

 本当にいろいろ世話かけてごめんな」


「別にいいわよ。

 あなたのお母さんにも頼まれているし、私自身が好きでやっていることだし」


 などというやり取りをした後で、北条さんと上杉さんがやってきた。


「これから入学式の場へ向かうわけですが、皆さん公の場では立場に沿った言葉遣いをするようにしてください。

 公的には前田さんはライジンググループの最高経営責任者で私たちは雇われる側となりますので」


 北条さんがそう言うと上杉さんがうなずく。


「なるほど、それもそうですね。

 ではこれから公の場では言葉遣いに注意を払うことにします」


 うーん、俺にとって上杉さんは先生でもあり、旅行などのときの保護者代理でもあるイメージが強いんで、なんか違和感が強いな。


 とはいえ公の場で運転手が自分を雇っている会社の最高経営責任者に対してため口をきいてたら、なんだこいつは思われるのも確かだろうし、そうしていくのが正しいんだろうけどな。


 エレベーターで地下の駐車場へ向かう途中で浅井さんが見送ってくれる。


「皆さん、行ってらっしゃい」


「ん、行ってくるな」


 浅井さんは大学を受けずに声優に専念するし、声優の仕事のない時間の空いているときは、俺たちの部屋の掃除などハウスキーピングをやってくれている。


 女性声優や女性アイドルは男性に比べると全般的に賞味期限が短いのか、長く続けていけるのはほんのごくわずかだし、浅井さんも声優を引退して主婦に専念できるようにしたいんだけどな。


子供を産んで育てるにしても、体力などに余裕がある若いうちにできるに越したことはないし。


 エレベーターが来たらそれに乗り込み、地下駐車場に到着したら特注のリムジンに俺たちは乗り込んで、日本武道館に向かう。


 新宿西口から九段下の南側になる日本武道館は高速でなくても距離が近いのであっという間だ。


 まあ、道が混雑していなければ、の話ではあるのだが入学式は午前10時過ぎからなので道路もこの時間はそこまで混雑はしていないしな。


 ライジングの場合は一日の勤務時間は6時間で始業や終業はほかの会社とずれているので、電車通勤にせよ自動車通勤にせよそこまで通勤で疲労することもないだろうし、就業時間自体が短いのでそこまで疲労が溜まることもないだろう。


 疲れを溜めたまま働くのは効率が悪くなるだけで、特にライジングの場合はアイデア勝負で集中力が必要なゲーム制作だからな。


 そんなことを考えていたら日本武道館へ到着していたようだ。


 北条さんがドアを開けていう。


「皆様、日本武道館へ到着いたしました。

 どうぞお降りください」


 相変わらず違和感はあるけども俺は鷹揚にうなずいて車を降りた。


「わかった。

 送りありがとう」


「いえ、仕事ですので」


 東大の新入生は毎年3000人くらいになるはずだが、女性はかなり少ないので、女性二人と一緒にいる俺は結構目立つようだ。


 なんか高校生クイズの時を思い出すな。


 入学式が始まるがこの辺りは高校の時とそう変わらないな。


 総長式辞、教養学部長式辞の後で祝辞と入学生総代宣誓があり、東京大学の歌を歌って閉式だ。


 正直に言えばそんなにわくわくするような面白いものでもない。


 とはいえ入学式の式場がキャンパスではないので、今日は本当にこれだけで終わり。


午後からは大学院の入学式があるはずだが、そちらは俺達には関係ないので今日はさっさと帰ることになる。


 高校のときはクラスが決まっているから入学式が終わったら各自が教室に戻って、ロングホームルームが行われ、その場で自己紹介をしたり、その後購買で教材や体育用品を買ったりもしたんだけどな。


 まあ、高校は教育機関だが、大学は本来あくまでも研究機関なので、学生の学びたいという自主性を重視していることになっている。


 もっとも日本の大学の場合はそもそも研究や学びが本当に重視されているのか疑問だったりするところも多いしそもそもが研究機関であるという建前程に研究がちゃんと行われてる場所も少ない気がする。


そもそも東大からしてその成り立ちが明治10年(1877年)4月12日、当時文部省の管下にあった二つの専門教育機関の、東京開成学校と東京医学校とを合併して創設されたものだが、前者の東京開成学校は、江戸幕府が文久3年(1863年)に開設した江戸幕府の洋学教育機関の開成所で慶応4年(1868年)の江戸開城により閉鎖されていたものを明治新政府が接収し同年9月に「開成学校」として復興したものだ。


後者の東京医学校は、安政5年(1858年)に神田お玉ケ池に開設された種痘所を起源としていてどちらも元は江戸幕府の教育機関だった。


それもあって日本の大学は研究機関としてよりも教育機関としての側面が強い気がする。


 そもそも日本の場合は大学の数が今後増えすぎるし2004年に行われた国立大学の法人化により独立採算を迫られて学費が高騰した。


 そもそも国立の研究機関を法人化するのがおかしい気がするんだよな。


 まあそのあたりは今後何とかしていくとして、そもそも大学とは何をする場所で学生に何を与えられるのかということを突き詰めて行くべきじゃないだろうかとも思う。


 もちろん日本の場合は強固な学歴社会なので、高卒よりも大卒のほうが有利なのは間違いはないのだが、そこで拾い上げた人材が会社で使い物になるかどうかは別問題だしな。


 ”前”のようなバブル崩壊のハードランディングがなくても高度経済成長期のように素直に言うことを聞くだけの兵隊のような営業などは必要とされなくなっていくだろうし、金融機関などの倒産や統合も進んでいくだろう。


 1990年代前半に18歳人口がピークを迎えたことや大学不合格者が増加したことにより、法的規制緩和による大学の新設ラッシュや、大学の臨時定員増加が認められたが、本来これは後に18歳人口が減少することを前提とした、あくまで一時的な措置であった。


 しかし、利権が絡んだ政治家や私学関係者の働き掛けにより、国立大学は元に戻すが、公立大学と私立大学は臨時増加分の半分を維持してよいこととされた。


 これが大学全入時代の原因の一つでもあり、Fラン大学といわれる私立大学ができた原因でもあり、さらには学費高騰の原因でもある。


 平成4年(1992年)から平成18年(2006年)までの間に大学は約70校新設され、短期大学から四年制大学への移行もあわせると184校増加した。


 さらに大学の数は平成30年(2018年)には30年程前に比べて大学の数は300校近くも増えた。


 私立大学は定員割れを防ごうと、とにかく学生を入学させようとしたが、それでも私大では定員割れが4割を超えていたりする。


 そりゃ大卒の質も落ちるわな。


 そして定員割れで学生の募集を中止し、その数年後に閉学する大学も増えた。


 それなら卒業してすぐ戦力として役に立つ、職業高校の数を増やせばいいだけの気がするんだが。

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