第26話 拾われ子はオアシスの町に帰る

『(結構長く滞在したなぁ……)』


 アードウィッチの町に来て二十八日目の夜明け前。スイはアイテムポーチの整理を終えて、ある部屋の前でドアの隙間から手紙を入れてから宿を出た。

 今日、スイはアードウィッチを発ち、オアシスへの帰路につく。


 ゲルベルトに打ってもらったショートソードに慣れるのに五日かかった。魔法剣は水属性の他に風属性も乗せる事が出来た。だが使われているドラゴンの鱗の特性上、やはり水属性の方が威力は大きい。

 魔法剣を使わなくても呼吸法による身体強化で充分な威力が出るので、余程頑丈なモンスターが相手でもない限りは使わない方が良いとスイは結論を出した。


 挨拶に向かおうとギルドに入る。モンスターは人間側の都合等考えずに事を起こすので、ハンターズギルドは年中無休で依頼を受け付けている。


「おや、おはようございます。スイ君」


『おはようございます、ヨルクさん』


「もう行くのですか?」


『はい、お世話になりました』


「こちらこそですよ。支部長を呼んでくるので少しお待ちください」


 ヨルクは受付を出てロビーに出ると支部長室へと向かった。


「(……ヴァレオンさんは支部長室で仕事してるんだな)」


 いつも受付奥から出てくるセオドアと比べてそんな事を考えていると、支部長室のドアが開きヴァレオンとヨルクが出てきた。


「おはよう。スイが居なくなるのは寂しいな」


「ハンターの皆さんも職員も、寂しがってましたよ」


『……ありがとうございます。お世話になりました』


「こっちこそな。次から誰に岩蟹ロッククラブ洞窟蝙蝠ケイブバットの討伐依頼を頼むか……」


『………………』


「はっはっはっ! 悪かった悪かった! 謝るからそんなぶすくれた顔をするな」


 わしゃわしゃと頭を撫で回されてスイは小さく悲鳴をあげた。

 そんなスイの後ろでギルドの扉が開く音が聞こえた。それが誰か、真っ先にコハクが気付いた。


「ぐるぁん」


「………………」


「よう、シュウ。どうした、お前もぶすくれた顔して」


「そんな顔はしていない」


「雰囲気がそんな顔してるぞ」


 不機嫌な様で、少し落ち込んでいる様にも見えるシュウにスイがきょとんとしていると、ゴーグル越しに視線を向けられた。


「スイ」


『はい。おはようございます、ハンターシュウ』


「おはよう。俺には何も言わずに町を発つ気か?」


 驚いた顔でヴァレオンとヨルクがスイを見た。それでもスイはきょとんとしたまま、あっけらかんと答える。


『ハンターシュウは、昨日と一昨日居なくて話せませんでしたから』


 ショートソードに慣れてすぐにオアシスに戻ろうとしなかったのはそれが理由だ。

 世話になったシュウに一言挨拶をと思ったが、危険度Bランクのモンスター討伐依頼が立て続けに入ったからと、シュウは二日間スイから離れ単独で依頼を遂行していた。

 いつ依頼が片付くのかも判らず、スイは今朝方、シュウの部屋にドアの隙間から世話になった礼を書いた手紙を入れて来たのだ。


「…………確かに、俺が宿に戻ったのは昨日の深夜だったが…………」


 薄情過ぎないか?

 そう言いたいのだが、スイの言う事も最もなので言えない。


「(初対面の時に比べてかなり打ち解けたと思ったら、こういう事をしてくる……)」


 視線に気付き、スイの後ろを見れば笑いを堪えているヴァレオンと、苦笑しているヨルクがいた。


「…………支部長」


「ぶはっ……!」


「支部長、雷魔法に打たれるのと、氷魔法で氷漬けになるのとどっちが望みだ?」


 制御が難しく、高威力が多い二魔法の選択肢を与えられたヴァレオンが慌てながら異論を唱えた。


「待て待て待て待て! そりゃ、討伐依頼をお前に任せたのは俺だが、スイがいつオアシスに戻るのか聞いてなかったのはお前の落ち度だろうよ!」


「…………」


 バチンッと、その右手から弾けたものを見てヴァレオンとコハクが跳び上がった。

 スイも冷や汗を流している。


『(こ、此処で雷魔法はまずいんじゃ……)』


「助けてくれ、スイ」


『えぇぇぇっ!?』


 スイの両肩に手を置き、その巨体をはみ出させながら背中に隠れたヴァレオンにスイは驚きを禁じ得ない。

 雷魔法は風属性に分類される。風属性持ちのスイがくらっても大したダメージにはならないが、そう言う問題ではない。


『え、あの、ヴァレオンさん!』


「スイ、そこを退きなさい」


『退きたくても退けられないです……!』


 両肩にある大きな手を指差しながらスイがオロオロすると、シュウは舌打ちをした。

 コハクもスイから引き離そうと、ヴァレオンのズボンの裾を噛んで引っ張っている。


「ハンターとは言え、子どもを盾にするなんてそれがハンターズギルド支部長のする事か? ヴァレオン」


「お前がその物騒な魔法消してくれりゃ済む話だろうよ!」


『(えーと、えーと……!)』


 まもなく雷を伴った暴風域に入りそうな気配に、スイは夜明け前でまだ鈍い頭を必死に働かせる。

 シュウはスイに甘い、気に入ったものがあればシュウにおねだりしてみると良い。

 滞在中に聞いた言葉を思い出して、スイはシュウの名を呼んだ。


「何だ、スイ」


『きょ、今日は討伐依頼は無いんですか?』


「無い」


「武器の調整が終わったら、オアシスで会う予定だってレジナルドさんから聞いてますけど、本当ですか?」


「レジナルドから? あぁ、それは本当だが」


『じゃ、じゃあ、ハンターシュウも一緒にオアシスに行きましょう! 荷造りの時間が必要なら待ちますし!』


「……全部アイテムバッグに入ってるから、このまま出れるが」


『じゃあ今から一緒に行きましょう! ボ、ボクまだハンターシュウと旅したいです! もっと色んな話を聞かせて欲しいなぁ……!』


 ニコニコと精一杯の笑顔で見上げるスイ。本当はシュウの腕を引っ張って外に出たかったのだが、ヴァレオンのせいで動けない。おねだりとはどうすれば良いのかを考えた結果の行動がこれである。


「(甘え方が下手か……!)」


 シュウの気を引いてくれた事は助かったが、あまりの下手さにヴァレオンが内心でツッコミながらヒヤヒヤしていると、シュウの右手で弾けていた雷は消えた。


「……スイ」


『は、はい?』


「女将に一言挨拶してくる。先に町の外で待っていろ。くれぐれも一人で出発するなよ?」


『わ、解りました』


「…………支部長」


「な、何だ?」


「スイに感謝しろ」


 シュウはヴァレオンに乱されたスイの髪を撫でて整えてやると、その手を離してギルドを出ていった。

 スイの心臓は、山道で転落しかけた時と同じ位大きく速く鼓動している。


『(き、緊張したぁ……ちょっと怖かった……)』


 スイが心臓の辺りを押さえて大きく息を吐いてると、後ろからも溜息が聞こえた。


「っぶねぇ……助かったぜスイ、ありがとな……」


『……いえ、でも今度からボクを盾にするのはやめてください……』


「おう、悪かった……でもお前も今度からちゃんとアイツに伝えるべき事は伝えとけ」


 一ヶ月足らずとは言え、目をかけて可愛がっていた子どもが、自分に一言も無く町を出ていったらそれはショックだろう。例え置き手紙があったとしても。

 ヴァレオンにはシュウの心情が多少解る気がした。


『ゴメンナサイ』


 いつも冷静で、時に飄々としているシュウがあんな風になるとはスイは思わなかったのだ。

 オアシスまでの道程は長いのに、夜明け前から既に疲労感を覚えながらスイは改めて二人に挨拶をした。


「気を付けてな。また来いよ」


「スイ君の御来訪、いつでも待ってますよ」


『ありがとうございます。また来ます』


 スイは手を振ってハンターズギルドを出た。コハクもそれに続く。


『……怖かったね、コハク』


「くるる……」


『え?』


 膨らませた尻尾を脚の間に入れているコハクの声はか細い。聞いた事無い鳴き方だったが、怖がっている時の声らしい。


『……ハンターシュウは怒らせちゃ駄目な人だね』


「くるる」


 新事実を胸に刻んで、スイとコハクは山道前に向かった。


 山道前の段差に腰掛けて、木の棒でコハクとじゃれているとシュウが歩いて来るのが見えてスイは立ち上がった。少しばかり身体に力が入る。


「待たせたな」


『だ、大丈夫です』


「……怖がらせて悪かった。そんな緊張するな」


 頭を撫でる手は優しい。スイは思った事を口にした。


『ハンターシュウは』


「ん?」


『ボクの頭をよく撫でますね』


 どうして、と言外に訊いてくるスイにシュウは微笑った。


「スイだって、コハクの頭をよく撫でているだろ。同じ様なものだ」


『……そうですか?』


「そうだよ。ほら、行くぞ。登りより降りる方が早い。モンスターに邪魔されずに歩ければ、今日の夜にはオアシスに着く筈だ」


『は、はい!』


 山道へと進むシュウの後にスイとコハクが続く。行きで崩落した箇所は、新しく道が作られていた。


「支部長から聞いたが、来る時落ちかけたって?」


『はい。道の真ん中が崩れ落ちてて、氷で埋めれば渡れるかなと思って……』


「渡ってる最中に足滑らせたのか?」


『はい……痛っ!』


 握り拳の指の関節部分で額を軽く叩かれて、スイは小さく悲鳴をあげた。


「迂闊過ぎる。ケースバイケースだが、跳べる距離なら跳んだ方が良い時もあるぞ」


『に、二箇所目はそうしました』


 額を擦りながらそういうと、シュウは頷いた。


「万が一に備えて全属性分、もしくは自分が持つ属性以外の魔石を持っておくのも手だぞ。使う時、不快感はあるが」


『はい……そう言えば』


 スイはこれまで見たシュウの魔法を思い出した。


『ハンターシュウは、風属性と水属性持ちですか?』


「あと無属性だ。スイも同じだろう?」


『はい。三属性です』


 西大陸と言う場所柄、オアシスもアードウィッチも地属性持ちが多く、相反属性の風属性持ちは極端に少ない。


『自分と全く同じ属性持ちの人と初めて会いました』


「場所が場所だし、複数属性持ちは単属性に比べれば少ないからな。スイは、雷魔法の制御は出来るか?」


『……あまり得意じゃないです』


「だろうな。風属性持ち全員が雷魔法も使える訳ではないが、氷魔法を難なく使えているのに雷魔法を使わないのは妙だと思っていた」


 無属性よりは少ないが、他の属性にも派生がある。氷魔法は水属性、雷魔法は風属性に、植物魔法は地属性に含まれる。この中でも特に制御が難しいとされているのは雷魔法だ。動きがあり、威力も高いので加減を間違うとすぐに暴発する。


「……スイはオアシスには暫く滞在するのか?」


『はい。Dランクにならないと他の大陸には行けませんし』


「あぁ、そう言えばそんな決まりあったな……なら、そうか……オアシスにいる間、俺が雷魔法の制御を教えよう」


『え?』


 足を止めたスイを、シュウが振り返る。


「暫くオアシスに滞在するつもりだったからちょうどいい。お互い依頼を終わらせた後の空き時間に教える事になるが」


『え、えっと、ハンターシュウのご迷惑になるんじゃ』


「俺が提案してるのに迷惑になる訳ないだろう。そんな事気にしなくていい」


『でも……』


 そう言われても、やはり気を遣ってスイは断ろうとするが、元々向上心はあるので教わりたい気持ちもあるのだろう。狭間で気持ちが揺れ動いているのがありありと見える。


「スイ。旅に出れば、ハンターは基本一人だ。何かを学ぶにも独学が多くなる」


『はい』


「だから、教われる時に教わっておきなさい」


『…………』


「それにな、スイがもっと強くなれば上級ハイランクハンターへの道程も短くなる。仕事を手伝って欲しい俺にとってもメリットはある訳だ」


『…………解りました。あの、よろしくお願いします』


 下げた頭に乗せられた感触に、スイはシュウの手だと解った。


「任せろ。呼吸法を短期間で覚えたスイなら、魔法制御もきっとすぐ出来るようになる」


『……頑張ります』


「よし。じゃあ行くぞ」


『はい』


 二人と一匹は山道を順調に下り、麓に辿り着いた時は昼前になっていた。


「思ったより早かったな。スイのお陰か」


『………………』


 ショートソードに慣れる為に、岩蟹の討伐依頼を受けては依頼数以上に倒すのを繰り返した結果、個体数が減り、スイは岩蟹に逃げられる様になっていた。

 スイと遭遇した途端、身体の向きを変えて横歩きで猛スピードで逃げて行く岩蟹にシュウが笑った程だ。


「此処からはひたすら歩きだ。宿が閉まる前までには多分着くだろ」


 オアシスから行く時はサンドホースの馬車に乗ったので徒歩よりも短時間で着いたが、帰り道はそんなもの勿論無い。運良く会えば乗せてもらえるが、今は居ないので真昼の砂漠をオアシスまで只管歩かなければならない。

 スイはマントのフードと砂猫のお面を被った。


「……どうした、それ」


『これ着けないと顔が焼けて凄く痛くなるんです』


「日焼けか。スイの肌は白いもんな」


『ハンターシュウも、肌は白い方ですよね?』


「そうだな。俺も日焼けはごめんだから、これ巻いておくか」


 そう言ってシュウはアイテムバッグからストールを出すと顔の下半分を覆うように巻いた。


『……それ、上半分は大丈夫なんですか?』


「意外と大丈夫だ」


『(……あ)』


 そんなつもりはなかったが、ふと良い機会だと思ってスイは常々気になっていた事を訊いた。


『ハンターシュウは、どうしてずっとゴーグルをしてるんですか? 今や戦闘時はともかく、ご飯の時も着けてますよね』


「……スイには教えてやろう。実はな」


『はい』


「俺はシャイでな。人と目を合わせるのが苦手――」


『そんな見え透いた嘘要らないです』


「冷たくないか?」


 どんな答えが返ってくるかと思えばこれである。最近はあまり無かったが、そう言えばこういう部分がある人だったとスイは思い出していた。


『言いたくないならいいです』


 スタスタとシュウを追い越してスイは先を歩く。

 コハクは体重が軽く、西大陸の暑さにも慣れて居るので、ずっと先に走って行ってはスナヤモリと言う小型爬虫類を捕まえて遊んでいる。


「……すまない、今は言えない」


『解りました』


「でもいつか教える。それは確かだ」


『……ボクが、Bランクになったらですか?』


 振り向いたスイは砂猫のお面で表情が判らないが、その奥には翡翠と燐灰石が見える。


「……そうだな。その時には、きっと教えられる」


『解りました。じゃあ、待ちます』


「……俺が言うのもおかしいが、気にならないのか?」


『なりますけど、でも』


 風が吹き、砂が巻き上がった。スイのフードが外れて淡く緑がかった白髪が、太陽に照らされて光を帯びる。


『誰にだってきっと秘密にしている事はありますし、ハンターシュウはボクがBランクに上がるまで待ってくれると言ったので、ボクも教えてくれるその時まで待つ事にします』


「…………そう、か」


『行きましょう、ハンターシュウ。コハク、もうあんな所まで行ってます』


 フードを被り直し、前を向いたスイは走ってコハクの所まで行ってしまった。


「………………」


 シュウは俯き、ゴーグルに手を添えて何か考えていたが、スイに呼ばれて顔を上げると歩き出した。

 そして山道を下りてから八時間が過ぎた頃、二人と一匹はオアシスに到着した。


『ふはー……砂は歩きづらい……久しぶりのオアシス……』


「ぐるるっ」


 アードウィッチとは異なる町の雰囲気にコハクは興味津々である。


「もう夜だ。宿を取らないとな」


『それならオススメの宿がありますよ。ボクがアードウィッチに行く前にお世話になってた所ですけど』


「今回もそこに泊まるのか?」


『部屋が空いていればそうしたいです』


「なら、一旦そこに行ってみるか」


 町の出入口から歩き出すと、砂猫のお面を被った子どもの姿に見覚えのある人が次々とスイに声をかける。


「あら、スイ君じゃない! 久しぶりだわ、何処かに行ってたの?」


『こんばんは。依頼でアードウィッチまで行ってました』


「まぁ、あんな遠い所に! お疲れ様、ゆっくり休んでね」


『はい、ありがとうございます』


「おや、スイ坊。久しいな。暫く見てないと孫が寂しがっていたよ」


『依頼先から今戻ってきました。暫くまたオアシスにいる予定です』


「ほっほっほっ、じゃあ孫に伝えとくよ」


「あぁ、スイ君。支部長から聞いたよ、依頼で北東の町に行ってるって。また時間ある時に蛇系モンスターを捕ってきてくれないか? 依頼は出しておくから」


『はーい。明日以降、他の人が先に請けてなければボクが請けますね』


 スイの後ろを歩くシュウは、その様子を見て珍しく目を丸くしていた。


「スイは、人気者なんだな」


『多分、この町でハンター適性試験に合格して、異常個体アノマリーも倒したからですかね』


 そう言われて、シュウは東大陸に居た時に聞いた話を思い出した。


「そうか、異常個体討伐者もスイだったな……適性試験の日って事は魔法主体での戦いだろう? よく倒せたな……待て、適性試験って事は……」


『猛毒をくらって、挙句に蟻地獄に呑まれて地下に落とされて死にかけましたけど、合格出来て良かったです』


 首から下げているハンターの証を見て、あの時の喜びを思い出していると、後ろから低い声で独り言が聞こえてきてスイは現実に戻された。


「……おい待て、適性試験は監督官がいる筈だぞ。何でハンターになる前の子どもがそんな事に巻き込まれているんだ? オアシス支部は何をやっている……?」


『あ』


「くるる……!」


 迂闊に藪の中に踏み入ったらアサシンスネークを出してしまった様だ。いや、もっと上のランクのスネーク系モンスターかもしれない。


『ハ、ハンターシュウ、ほら、あそこです。宿屋ブレス、あそこがボクのオススメですよ!』


 シュウの腕を引っ張り、どうにか意識を反らせながら宿屋のドアを開けた。


「あら、夜分遅くまでお疲れ様……スイちゃん?」


『こんばんは。お久しぶりです、ジュリアンさん』


 お面を外して挨拶をするスイに、ジュリアンは驚きで目を丸くした後、笑顔を見せた。


「久しぶりね! 今帰ってきたの?」


『はい。今日ってお部屋空いてますか? 二部屋空いてたらお願いしたいんですけど』


「二部屋? あ、後ろの方はお知り合いかしら?」


『アードウィッチの町で知り合った、ハンターシュウです。ハンターシュウ、こちらはこの宿屋のオーナーのジュリアンさんです』


 スイに紹介してもらい、シュウはストールを外して挨拶をする。


「シュウだ。スイの勧めでこの宿を紹介してもらった。空いてるならとりあえず一晩頼みたい」


「ジュリアンよ。部屋なら空いてるから大丈夫。スイちゃんが階段上がってすぐ、アナタは二階奥の部屋でいいかしら?」


「それで良い。スイも良いか?」


『……あの、ジュリアンさん、此処ってモンスターも一緒で大丈夫ですか?』


「モンスターってその仔? ……その仔って、もしかして」


 ジュリアンはスイが抱き上げたコハクの種族に気付き、警戒したがすぐにシュウがフォローを入れた。


灰色獅子狼アサシンレオウルフの幼獣だ。スイには随分懐いているし、アードウィッチのハンターズギルド支部長公認で従魔の首輪を着けて町の中にも入れていた」


「……灰色獅子狼って、人に懐くのね……初めて見たわ……まぁ、それで問題無かったのならウチでも大丈夫よ。テイマーの宿泊を断ったりはしてないし」


『ありがとうございます。部屋はボクも問題無いです』


「はい、じゃあコレが鍵よ」


 二人それぞれ鍵を受取り、階段を上がってスイの部屋の前で就寝の挨拶を交わす。


「おやすみ、スイ。随分歩いたから脚をちゃんと休ませろよ」


『はい。おやすみなさい、ハンターシュウ』


 スイはシュウと分かれて自分の部屋に入る。変装ディスガイズを解除してコハクを降ろすと上体を伸ばした。

 風呂に入り、風魔法で髪を乾かした後は、ベッドに潜り込む。コハクはベッドの端で丸くなって眠っていた。


『(……明日は、おじいさまとおばあさまのお墓参りに行ってから、ギルドに行こう……)』


 そう予定を立てて、スイも眠りについた。

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