第17話 拾われ子の地下探索、再び
『(無いなぁ……)』
スイは今日の依頼をすべて片付けた後、砂漠に点在する遺跡のひとつを探索していた。ハンター適性試験を受けた日に、地下空洞に繋がっていた遺跡だ。
地下空洞側はあの時周辺を虱潰しに探したが、隠し扉を開ける仕掛けは見つからなかった。
地上側に仕掛けがあると思ったのだが、何もそれらしい物は見つからない。
『(地下空洞の下の方、探索したかったんだけど)』
松明や回復薬も充分に持って来たのだが、肝心の扉を開ける方法が解らない。
『(あそこの蟻地獄からでしか行けないとかだったらどうしよう……でも扉があるって事はこっちが正規の道だと思うんだけど……)』
あの時、何が原因で開いたのか。スイは考える。
扉を挟んで地下側と地上側に一人ずつ近くにいないと開かないのか、やっぱり何か外から動かす仕掛けがあるのか、それとも別の方法があるのか。
スイは試しにあの時の様に扉を叩いてみた。
『(イタタタ……)』
扉はうんともすんとも言わず、ただスイの手が赤く、そして埃っぽくなっただけだった。
『(あの時叩いて開いたのは偶然……? いやそんな訳無いな)』
仕掛けが外側にある場合、それが機械仕掛けであっても魔法仕掛けであっても、動かす事で生じたエネルギーが扉等に伝わり開閉する。
『(……もしかして、扉そのもの……?)』
扉の両側に無いのであれば、中にあるのでは。
そう考えて、スイは扉に手を当てて魔力を流してみた。
――バゴンッ!
『うわっ!』
扉が勢い良く開き、スイは仰け反った。最大まで開いた扉は、開く時とは違ってゆっくり閉まろうとする。
『(何で?)』
この開閉速度の違いは何なんだと思いながらスイは通り抜けた。
『(魔力で開く扉だったのか)』
扉そのものに仕掛けが施されていたのだからいくら外側を探しても見つからない訳だ。
『(目指すは最下層)』
スイはアイテムポーチから松明と火の魔石を出すと、松明に火を点けた。スイは少しだけ眉根を寄せる。
『(やっぱりこの感覚は苦手だ……)』
火の魔石はスイが持つ水属性とは相反属性になる。相反属性を持つ道具を扱うと、魔力同士が反発を起こす為、不快感が生じる。
小さい魔石や、付与の弱い道具なら不快感を覚える程度で済むので使用は出来るが、属性の力が強い武器や防具等は魔力の反発が大きくなり装備する事が出来ない。
『(この間はモンスターは居なかったけど、念の為気を付けて行こう)』
気配を探りながら階段を見つけては降りて行き、水晶があるフロアまで辿り着いた。一本道を歩くと、蟻地獄の直下と思われる広い空間に出た。
『(流石にあの
異常個体の亡骸は跡形も無くなっていた。猛毒液も見当たらない。
『(世界に還ったのかな)』
亡骸があった場所を通って、更に下層へと続く階段を降りると、また一本道となっていた。両側の壁に何か模様のようなものが書かれている。
『(……これ、古代文字だ……読めない。時間ある時におばあさまから貰った本で勉強しなきゃ)』
筆記用具を持って来ればよかったと考えながら歩き続けると、やがて装飾が施された扉が見えた。
扉の奥に気配が無いか探るが、何も感じない。
開けようと扉に両手を当てて押すと、突如魔力に似た力の膨らみを感じた。
『っ!?』
地面から突起物が次々に隆起し、スイに襲いかかる。初撃を避けきれず、庇った右の手の平が裂けた。スイは後方に跳びながら敵の居所を探るが、やはり気配は全く感じない。
それよりも、感じた力の方がスイは気になった。
『(魔法じゃない! 精霊術だ……!)』
『このっ……!』
"これより先に進もうとする者よ"
"これより先に進もうとする者よ"
『!?』
頭の中に響くふたつの声に、スイは辺りを見回す。しかし姿は見えず、気配も無いままだ。
"資格はあれど、今はその時に非ず"
"資格はあれど、今はその時に非ず"
『資格……? それは何の資格ですか?』
"引き返すがよい"
"引き返すがよい"
それを最後に頭の中の声は止んだ。問いかけても返事は無い。
『(……もう一回開けようとしたらどうなるかな……)』
扉に手を当てようとした所でまた精霊術の力を感じたので、慌てて離れた。
『(……っ、言われた通り、今は帰ろう……)』
スイはこの先に行く事を諦めた。身体が微かに震えている。自分がこの先にいる何かを畏れているのを自覚していた。
『(精霊術を使ってきたし、さっきの声は多分上位の精霊だ……手加減してたし、あの精霊術は警告だ。本気を出されたら死ぬ)』
深く裂け、鮮血が流れている右の手の平を見る。アイテムポーチから回復薬を取り出してかけた。傷痕を残さずに治った手の平を開いたり閉じたりしながら、スイは帰路に着いた。
『(……これって、ギルドに報告した方が良いのかな……?)』
異常個体の出現は報告義務があるが、上位精霊と思しき存在が御座す場所の発見はどうするべきか知らされていない。
上位精霊自体がそうそうお目にかかれない存在だ。
『(………………)』
話すべきかどうか考えていたスイの足が止まった。
『(………………人が、いる……)』
地上に戻っている途中で、スイは人の気配を感じた。隠し扉があるフロアに複数人いる。
スイは自分の気配を消すと、松明を消し、フードとお面を被って慎重に歩く。
階段を上り、隠し扉に近付いて耳を当てると、人の声が聞こえた。しかし、扉の厚みで話の内容迄は聞き取れない。
『(……嫌な気配、だなぁ……)』
悪意や害意を扉越しに感じる。ローマンやセオドアが言っていた人攫いの盗賊団の話を思い出した。
『(……多いな)』
数は十人より多く、十五人には満たない。
スイは扉から離れて近くの岩陰に身を隠す。もしも開けられた場合、どうやってこの場を切り抜けるか、思考を巡らせた。
『(戦闘は無理だな……強い人が何人かいる。囲まれたら捕まる)』
息を潜めてどれくらい経ったか。人の気配は少しづつ遠のいて行った。
遺跡の中に気配を感じなくなっても、暫くスイは暗闇の中に身を潜めた。
『(……もう大丈夫かな……)』
立ち上がると、そろりそろりと扉に近付く。
遺跡の近くに居られると、この扉が開いた時の音でバレそうだが、意を決して扉に手を当てて魔力を流した。
――バゴンッ!
『(何で閉まる時みたいに静かに開かないんだ……?)』
ヒヤヒヤしながら扉を通り抜け、音を立てない様に歩きながら時間をかけてスイは遺跡の出入口まで辿り着いた。
『(周りには……人は居ない。多分)』
気配を消すのが上手いと、索敵しても感知出来ないので油断出来ないが、スイは最大限に警戒しながら遺跡の外に出た。
『(これは報告しておこう)』
スイは周りに人影が無いのを確認して、オアシスまで走った。
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