第1話

葉月茜。県立東雲高等学校に通う、高校1年生。

今日も、いつものように学校に向かっている。

「東雲ー、東雲です。お降りのお客様は――」

電車は徐々にスピードを落とし、車体を大きく揺らしながら駅のホームに停車した。

電車をおりると、同じ制服に身を包む高校生たちで溢れている。


「葉月!入学早々、何しけた顔してんだよ」

突如名前を呼ばれ、思わず振り返る。

「びっくりした、なんだ速水か。おはよ。」

「おい、なんだってなんだよ!」

「別にー?」

速水瑞希もまた、県立東雲高等学校に通う高校1年生。

茜と家が近く、親同士も仲がいいせいで、小学生の頃からなんだかんだでずっと一緒にいる、いわゆる腐れ縁というやつだ。


「なんでそんな浮かねえ顔してんだよ、変なもんでも食ったか?」

「もー、そんなんじゃないよ!またあの夢見ちゃって…」

「あの夢って?」

「…優斗くんの夢。」

「…あー。まだ忘れてないんだ、あいつのこと。」

九条優斗。茜達の、2つ上の男の子。

面倒見のいい彼は茜たちが小学2年生の時、いつも茜と瑞希と遊んでくれていた。

突如として姿を消したのは、茜が4年生の時。

親の転勤で、遠くに引っ越してしまったのだ。

「そりゃあ、ね。急にいなくなっちゃったんだもん。」

瑞希が、足を止めた。

「…まだ、好きなの?あいつのこと。」

瑞稀の顔が覗き込んでくる。長いまつ毛に切れ長な奥二重の目。黒くて無造作な髪は、風に揺られている。漆黒の瞳に真っ直ぐ見つめられ、一瞬時が止まった。

「えっ…。違っ、そんなんじゃないし!」

茜は目を逸らし、静寂をかき消すように大きな声を出した。

「まあ、お前みたいな色気ゼロな女じゃ、脈なんて一切ないけどな。」

戸惑う茜を置いて、瑞希はスタスタと歩いていく。

「一言多い!てか置いてくな!バカ!」

茜も慌てて走って彼の後を追った。

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