思えば思わるる

@hihi_yone

序章

「あかね―――」

遠くから、誰かの呼ぶ声が聞こえる。

懐かしくて、心地のいい声。

大好きな、彼の声だ。

胸に期待を膨らませ、すぐ後ろを振り返る。

視界が霞んでいて、顔がよく見えない。

「湊く―――――」


ピピピピッ ピピピピッ…

目覚まし時計の音が、部屋の中でこだまする。

寝ぼけた目を擦りながら、鳴り響く目覚まし時計を慣れた手つきで止めた。

「またこの夢か…」

ふと時計に目をやると、時刻は8時7分を示していた。

「げっ、やばい、遅刻する!」

慌ててパジャマを脱ぎ捨て、制服に身を包む。

階段をかけおり急いで顔を洗い、ヘアアイロンで寝癖を直す。

時刻は8時24分。走ればギリギリ間に合うといったところか。

「茜、朝ごはん出来てるわよ」

キッチンから母の声がする。

しかし、もう優雅に朝ごはんを食べている余裕などない。

「大丈夫!行ってきます!」

ドタドタと廊下を走り抜け、ローファーを履き、家を飛び出した。


見慣れた通学路を、全速力で駆け抜ける。

腕時計が示す時刻は、8時29分。

「電車まで、あと3分…ギリギリ間に合う!」

駅の改札を慌ただしく通り抜け、電車が待つホームへと続く階段を駆け上がる。

電車に乗り込んだと同時に、扉が閉まる。

荒い呼吸を整えながら、空いてる座席に座る。

「危なかった――」

電車に揺られながら、乱れた前髪を直した。


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