どこ
真夜中のショッピングモールには、夜間警備で揺れるライトと、前歯の尖ったネズミしかいない。
昼間は絶えることのないベンチの温もりも、今ではすっかり失せている。
「随分と、浮かない顔をしているね」
その声だけで、分かる。
やつだ。
鬼塚。
「こんな所にいたら、風邪引いちゃうよ」
こんな鬼でも、風邪を引くのか。
思わず突っ込みそうになったが、やつの顔を一目見たら、その気すらも消え失せた。
「お疲れ様」
銀に染まった、長い髪。野良猫のように、黄色い目。生気のない、白い肌。
去年も今年も、変わらない。
ただ。
「鬼弦くん」
顔のちょうど右半分が、真っ赤に焼けて爛れている。
一体何を押し当てられたら、そんなに醜く歪むのか。
「ひでぇな、おい」
「何が?」
「てめぇの顔に決まってんだろ」
鬼塚は一瞬、きょとんとする。
それがひどく、アホらしかった。
「ああ、これ」
ひょっとすると、ありとあらゆる痛覚でも、失くしているのかもしれない。
鬼塚は傷の上から、痒い所をぼりぼりと掻いた。
「そんなにひどく、見えるかなぁ」
不思議そうな顔をしつつも、鬼塚は俺に笑い掛ける。
今年も派手にやられたようだ。
――いや、違う。
どうやら今年も、随分と派手にやらせたようだ。
「そんなことより」
黄色い瞳が、俺を覗く。
耳に熱い、吐息が掛かった。
「ここ、痛くない?」
自分のことを棚に上げ、鬼塚は俺の首をさする。
「あいつ」のすばるに出会う前、そこら辺のやつにやられた。
首を激しく絞められて、思わず失神しそうになったが。
「大丈夫? 湿布か何か、貼っておく?」
「いらねーよ、馬鹿」
鬱陶しくて、手を払う。
ぱちんと、乾いた音が響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます