地底幻想のギブラニア
コトプロス
第1話 なんか面白いこと無いかなあ
西暦2022年、ロソアがウクレイナに侵攻を開始した。当然ウクレイナはこれに応戦、開戦時こそロソアの一方的な勝利と思われたが、ウクレイナの指導者ゼドンスキーが想定外の踏ん張りを発揮し以後泥沼の戦線が展開される。
戦争は長期化し、互いに戦いの落とし所を一歩も譲らず、ついには禁じられた核兵器をお互いに撃ち合った。
とてつもない大破壊が2つの国を包み込み、誰もが北の大地は不毛の地と化したと悲しみに包まれた。
しかし各国は奇妙なものを発見する。初めは巨大なクレーターと思われた地域に獣の耳が生えた人間が現れたのだ。
初めこそ「放射能の影響だ」「いやロソアの非人道的な人体実験の被害者だ」などと憶測が流れたが、接触した除染チームとの地道で根強い接触の末意思疎通するにいたり、彼らは地球の内側から来た人間だということが判明する。
ここで君たちに質問するが、地球空洞仮説というモノを皆さんはご存知だろうか?
19世紀頃には真面目に研究されていたが、科学の発達に伴い否定され、20世紀に入るとオカルト雑誌などでジョーク交じりに取り上げられ21世紀に入ると映画のネタとして使われるようになった、一種の仮説である。
曰く、我々が住んでいる地表だけではなく、地表からはるか地下に潜っていくと地球内部に巨大な空洞がありそこでは太古の動植物が姿を変えずに存在しているといったような話だ。
そしてその存在を聞かれれば殆どの人間は「あったら面白いだろうけどそれ本気で言ってる?」となっていた事だろう。
そう、あの時までは。
2カ国による核戦争のエネルギーは地下深くの大空洞まで貫く巨大な亀裂を生じさせ、その衝撃は大空洞に住む獣人にも被害を及ぼしたのだった。
突如として大地が裂けるという現象の事態に恐怖した獣人たちは調査隊を結成。突如現れた亀裂を調べるためその奥深くに探索を進め、その結果地表のクレーターの除染作業員が人類以外の知的生命体とのファースト・コンタクトを果たした。
そこから世界は目まぐるしく変化した。獣人、エルフ、ドワーフなどのファンタジー小説の中の存在だったはずの彼らと“魔法”の存在はそれまでの人間社会を大きく揺るがした。更に大亀裂から漏れ出る“魔素”、つまりは空気中に漂う魔力によって放射能が中和されていることが発見され、各国はこぞって“魔力”なるものを大真面目に研究し初めた。
一方、ロソアとウクレイナの戦争は有耶無耶のうちにウクレイナの勝利によって終わった。ロソアの指導者からの声明が途絶えた一方、ウクレイナのゼドンスキー大統領からは「今回の核戦争を行った責任はすべて私にある。」との声明を出し、ながく、悲しい両国の戦争は終わったのだった。
そして終戦から半世紀の時が流れ、人類は大空洞に移り住み、他種族と交流し、子を育てた⋯⋯
時は2075年、大空洞のとある日系人区画の狭い工場にて、電動ドリルを片手に唸り声を上げる少年から始まる⋯⋯
◇
「だーっ!!面白くねえなぁ⋯⋯なんかスカッとする事ねえかな」
俺の名前はユキジオーカン。よくある空洞移民二世の健康優良少年だ
俺がおぎゃあと産まれた場所は地上なんだが、俺が産まれたのとほぼ同時に親父の地下空洞行きが決まって母親は俺を産んで直ぐに失踪。大空洞に行きたくなかったらしいとは聞いてるがあんまりだよなと思う。
で、親父もいつか地上に帰りたいからって俺に“往還”、行って帰ってくるって名付けたらしいのよ。漢字で書くと大漢でデカい男になれってダブルミーニングを仕込んでるんだと。
それでだ、いくら現代の文化が流入してるとは言え、治安がいわゆる中世ヨーロッパな地底世界だからね。一部の厳重に保護された特区以外じゃあ開発に来た地上人と現地の空洞人とで骨肉の争いが繰り広げられているんだ。まあ母さんもそりゃあ来たくないかなって。しかも、空洞人が地上人の持ち込んだユンボなどの重機を見て作ったギブラニアとかいう超絶かっこいい人が乗り込む巨大な鎧があってな。一般人はそういうのに触れたくないから来たがらないんだと。もったいないのに⋯⋯
で、お情けで特区に出来てる学校にこそ通えている、まわりは金持ちのボンボンか作業員の子供で、なんというかクッキリと2つに別れててめちゃくちゃ居心地悪いんだよね……
開発してる会社の役員やエリート社員の子供と連れて来られてる作業員の子供が、親の力関係そのまま学校の関係に反映されてるからさ。
もちろん俺は作業員の子供だから肩身の狭い方さ!
これでギブラニアが間近で見られる環境じゃ無かったらとっくに引きこもりになってる自信がある。
つまりは、
「なんか面白いこと無いかなあ⋯⋯」
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