十二天将編
第0話 再び、駅にて
京都駅の新幹線上りホームに、その三人の姿はあった。
「東京での用事が済んだら、寄り道をせずに速やかに帰ってきてくださいね」
年配の男が言った。歳は四十代前半。しわがひとつも出来ていないスーツに、実直真面目な顔の取り合わせは、まさにサラリーマンの鏡といった風情を醸し出している。
「分かっています」
「分かっています」
新幹線のドアを背にして立つ、二人の少女が同時に答えた。歳は十代前半で、そろって同じ学校の制服を着用している。
「お宮の方の式典や行事がいくつも立て込んでいますから、そのことも重々忘れないようにしてください」
「分かっています」
「分かっています」
同時に、同じ口調で少女は答える。
「それから、姿をくらませている次期当主に会うことができましたら、すぐに京にお戻りになるように伝えてください。お願いしますよ」
「分かっていますよ」
「分かっていますよ」
二人が今度はおざなりに答える。
「そんな嫌なお顔をしないでください。これもすべて次期当主のことを考えてのことなのですから。私は本当に心配しているんです。そもそも、先代から三人のことを頼むといわれて――」
男の愚痴交じりの言葉は、ホーム上に発車ベルが鳴り響くまで続くのだった。
――――――――――――――――
三人組からそれほど離れていない場所に、修学旅行生の集団がいた。列に並んだ生徒達の半分は前に立つ教師を見ており、残りの半分は後方にいる三人組の方に目を向けていた。より正確にいうのであれば、三人組のうちの二人の少女の方にだけ向けられている。
後方を見ているのは、全員、男子生徒たちである。女子生徒は見向きもしていない。男子生徒ばかりではなく、生徒を引率しているはずの男性教師も視線が後方に釘づけだった。
「ひょっとしてモデルじゃないのか。あんなに可愛いんだからさ」
「違うだろ。たぶん、アイドルだよ。あの優しそうな笑顔からして間違いないって」
「女優って可能性もあるぜ。もしかしたら、今、映画かドラマの撮影中だったりしてな」
口々にのぼる言葉は、しかし、どれも的外れなものであった。
なぜならば、その二人の少女の正体は――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます