閑話 鎚使いの過去 その3 ☆愁視点

 俺は翔琉と同じハードル走を選んだ。

 最初はついて行くのに必死だった、何度死にそうになったか分からない。

 でもなんやかんや楽しかった、翔琉以外にも友達ができた。


 翔琉には感謝してもしきれない。


 そんである時、悠里が部活に入ってきた。

 俺と翔琉はすぐに悠里と仲が良くなった。

 悠里は前付き合っていた友達と仲が悪くなって、居場所を求めてここに来たと言っていた。


 そう、孤独だったのだ。


 意気投合した俺たちは陸上部で切磋琢磨した……毎日がもっと楽しくなった。

 ある時、悠里からこんな相談が来た……「翔琉のことが好きかもしれない、でも、伝えたら翔琉がもう自分とは会わなくなるかもしれない」……とかなんとか。

聞いた瞬間、俺はこう切り返した。


「……なんだよ、そんなことかよ」


「……え?」


 ……悠里は困惑していた。

 だが、俺はそう言い切れた……翔琉はそんな奴じゃないと知っていたからだ。


「その程度で会わなくなるなんて、くだらねぇよ」


「……」


「別にそれはよ……お前の気持ちなんだろ? なら伝えりゃいいだろ、別に死ぬわけじゃないんだし」


「……そっか、そうだよね!」


 ……悠里は何か吹っ切れたような……そんな表情をしていた。

 ……で、数日たって、二人は付き合い始めたらしい……それを聞いた時は、どういうわけか嬉しかった。

 多分、初めての親友同士が付き合えたのが、自分の事のように嬉しかったんだと思う。



 ある時、翔琉は祇園高校を受けたいと打ち明けた。

 俺と悠里は、このままじゃ取り残されてしまうと思って、翔琉の指導の下、猛勉強した。


 教師は絶対無理だと言ってきたけど、俺たちはその言葉を燃料にして猛勉強をした。


 そんで、悠里と2人で切磋琢磨して、祇園高校に受かってしまったのだ、俺は最初にお袋に連絡した。


『えぇ!? あんたぎ、祇園高校受かったの!? 祇園高校ってあの!? あんたが勉強して……でもあんた成績が……でも現に受かってるわけだし……』


「お袋、落ち着けよ」


 お袋は歓喜のあまり、呂律が回ってなかった。

 そしてお袋はそのまま号泣しだした……俺も思わず涙を流してしまったのはここだけの話だ。




 高校に入ってから、薫ちゃんや昇といった仲間も増えて、嬉しかった。

 学校に居場所が無かった俺はもういない、俺は幸せだった。

 ……でも、その引き換えで、お袋は、俺を救うためという理由で、ヒューモンスターになってしまい、前科がついてしまった。


 お袋……なんでそんなことしちまうんだよ……。


 事情聴取を受けている時、俺は悲しくて悲しくて仕方がなかった。

 聴取が終わり、外に出ると……翔琉と悠里、そして薫ちゃんが迎えてくれた。


「……愁さん」


 最初に近づいたのは、薫ちゃんだった。


「薫ちゃん……俺……」


 俺は耐えきれなくなり……泣いてしまった。

 すると、両肩に何かが置かれたような感触がし、前を見ると……薫ちゃんが笑顔で俺を見つめていた。


「愁さん……きっと大丈夫、大丈夫だよ……」


「……薫ちゃん」


 薫ちゃんは俺を元気づけようとしているようだった。

 俺は薫ちゃんに包まれ……大きく泣いた。


 きっと大丈夫……か。


 俺は……お袋みたいな人をこれ以上増やしたくない。

 俺が止めてやる、ヒューモンスターを。


 これ以上、俺のような思いをする人を増やさないためにも、俺は戦う。

 仲間と共に。

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