閑話 鎚使いの過去 その2 ☆愁視点
小学校高学年の時、事件が起きた。
そう、ウトピアとダンジョンの出現だ。
俺はその時、1人でテレビを観ていた……怖くて震えていた。
速報が入ると同時にお袋から電話が来た。
怯えていたので、電話の音で余計にビビった。
お袋は焦った口調で俺の名前を呼び掛けた、その焦った口調で、俺はなぜか落ち着いた。
自分が焦っている状態で、他の人が自分以上に焦っていると、不思議と落ち着くことがあるらしい、恐らくその時はそういう状況だったのだろう。
……まぁ、その後はウトピアの軍事介入やら冒険者ギルドの発足やらで、この騒動は落ち着いたんだけど。
……そんで、俺は中学に進んだ……だがやはり、周りにはついていけなかった。
俺はまたしても、孤独だった。
今日も授業をなんとなく受けて、なんとなく買い物して、なんとなく家事をして……。
そんな毎日がまたやってくる、最初はそう思った。
でも……。
「よ! やっと近くの席になったな!」
最初の席替えの時、前の席に翔琉が来た時だった。
最初、翔琉はウザい奴だと思った、大手ゼネコンの息子で、いつも色んな奴と話していて、話しかけないで欲しいと頻繁に思っていた。
だから、席替えした時、最初は嫌な気持ちが勝っていた。
なんでこんな奴が俺の席の前なんだよ……って思った。
翔琉は席替えした瞬間から頻繁に話しかけてきた。
「ずっとお前と話たかったんだ! このクラスで友達になってないのお前だけだったし! 俺の事は翔琉でいいよ! 愁って呼んでいいか?」
「……あぁ」
こいつは本当に馴れ馴れしかったな……今はそんなこと思わないけど。
翔琉は色んなことを話し掛けてきて……俺はなんとなくそれに答える、そんなことを繰り返した。
……日を重ねるうちに、段々自分たちの家の話を始めた。
「俺マジで自分の家の事嫌いなんだよね、父さんは『人を見極められる能力を身に着けろ、時には切り捨てる覚悟を取れ』とかなんとかほざくしさ、別に付き合う相手くらい自分で決めるっての!」
「……」
この時の俺は「俺だってできればお前とは付き合いたくないよ」と思った。
だが、俺の家について話すと……。
「……そうか、それは辛いだろうな」
……翔琉は同情してくれた。
「……同情なんていらねぇよ、もう慣れたし」
「……家ではいつも一人なのか?」
「あぁ、近所の人がたまに来るくらい」
「近所の人と仲いいのか! 羨ましいな」
「……羨ましい?」
「ほら、俺、近所付き合いとか……縁ないだろ?」
「……」
……翔琉はそれどころか、俺の事を羨ましいと言った。
変わった奴だ、と思った。
「お前なんか部活やってる?」
「……やってないけど?」
「なら、陸上部来いよ! ちょうどクラスで入ってる奴いなくてさ」
「……陸上部?」
最初は右から左に流していた、興味無かったし。
でも、その日の帰り道、俺は考えた。
どうせつまらない授業を受けるだけだし、運動は苦手だけど、少しくらい学校行く理由をつけた方がいいか、と。
そんで俺は入部届を出して、陸上部に入ることになった。
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