閑話 鎚使いの過去 その1 ☆愁視点
「それじゃあ、今度はゴールデンウィークに帰ってくるから、ご飯は自分で作れるようになったよね?」
「うん! 大丈夫! いってらっしゃい!」
小学校一年生の頃から、お袋は仕事で遠くに行っている。
お盆とか長期休暇になると帰ってくる他、たまーに土日にも帰ってくる。
親父は海外で仕事をしていて、正月くらいにしか帰ってこない。
幼稚園の頃には、お袋から家事を一式教わり、買い物の仕方やもしもの時のために警察や消防の呼び方、病院に行ったときにやること、そして集金が来た時の対応方法なども教わった。
曰く、早く独り立ちできるように。
最初は意味が分からなかったが、すぐにそれが分かった。
小学校一年生の授業参観の日、俺以外の生徒の親が来ていたのを目の当たりにしてからだ。
俺はこの時点で理解した、お袋の言いたかったのはこういう事なのかと。
俺は他の子どもと違って、両親が滅多に家にいない。
だから早く独り立ちできるようになって欲しいと、そう考えているのかと。
だが、お袋はそれでも心配だったのか、近所の人に、たまに家に来るようにお願いした。
だから、家の近所で俺の事を知らない人はいない。
でも流石に小学校高学年になると、近所の人が来なくても何とかなるようにはなってきた。
◇
お袋は毎日朝になると電話をしてくる。
「学校はどうか?」「友達はできているのか?」「先生は優しいか?」いつもそんなことを言ってきていた。
低学年の時はお袋の電話が楽しみで仕方がなかったのだが、流石に中学になってくると鬱陶しく感じてきた。
……でも、一応心配してくれているのは分かってるし、お袋としても、本当は俺を一人にさせるのは相当嫌だったのだろうというのは伝わった。
お袋は電話の締めの言葉にはいつもこう言っていた「人に迷惑なことはしないでね」と。
そんなこと当たり前だよ! とかなんとか言って、いつも電話を切った。
お袋が「好きに使っていい」と言って、数万円くらい家に置いてくれているのだが、俺は子どもながら申し訳ないと思って使わないでいた。
……だが正直な話、初期はお菓子とかに使っていた、今思うとかなり無駄遣いだったと思う……もしかしたら、お袋はそれを学ばせるためにお金を置いていたのだろうか?
お袋が話してくる内容で、友達については……適当に誤魔化していた。
理由は、友達との話について行けなくて、友達がいなかったからだ。
皆いろんな話をしていた、ゲームとかやっている習い事とか……。
俺は話に入ろうと努力はしたが、どうにもダメだった。
後から考えたのだが、俺の話し相手は大概近所の大人なので、同年代との話しの内容に共感できなかったんだと思う。
そんなこんなで、小学校の頃は……孤独だった。
自分で言うのもなんだが、俺は頭が良い方ではないので、授業はあまり理解ができず、テストの点数も良い方ではなかった。
運動も……あまりできず、俺は色んな奴から馬鹿にされた。
辛かったけど、近所の人のおかげで、苦では無かった。
学校に行きたくなくなったことも何度かあったけど、鬱陶しく電話をしてくるお袋の為にも行かなくちゃ、という考えがどこかにあり、なんとか卒業まで無事に登校でき、皆勤賞も取れた。
……重い病気に罹らなかったのは奇跡だろう。
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