閑話 弓使いの過去 その1 ☆悠里視点

「それじゃあ、またな、悠里」


「……うん」


 翔琉は悠里を喫茶店まで送った。

 悠里は未だ、元気が無い状態だった。


「……ごめん、翔琉。気を遣わせちゃって」


「いいって! それよりも、今は体を休めよう、な? 変身して疲れ溜まってるだろ?」


「……翔琉の方が疲れてるでしょ?」


「ま、まぁな!」


 悠里は翔琉と話をすると、若干元気を取り戻したのか、笑みを浮かべた。


「じゃあな!」


「うん! 翔琉も道中気を付けてね!」


「おうよ!」


 翔琉は手を振り、バギーを走らせた。

 悠里は喫茶店に入り、帰宅したことを中にいる母親に言った。

 悠里は店のカウンターに座り、父親の事を考え始めた。


『悠里! 大丈夫か?』


『悠里……お父さん、頑張ったよ……』


「……パパ」


 悠里は過去の事を思い出し……涙を浮かべた。



 物心ついた時から、パパの顔をあまり見ていない。

 理由はパパが国を守る仕事に就いているからだった。

 そのことを知ったのは小学校の頃、ママに聞かされた。


「パパはね、私たちを守るための仕事に就いているんだよ」


「そうなの!? パパ、かっこいい!」


 ……そう、最初、ウチはパパの事をカッコいいと思っていた。

 ウチらを守るために、毎日戦っている、だから、たまにしか帰ってこなくても、何とも思わなかった。


「ただいまー! 悠里! 帰ったよ!」


「パパ! おかえり!」


 パパが帰ってくる日は、飛び上がるほど嬉しかった。

 パパが帰ってくると、必ず家族でどこかに出かけた。



 ……その日、ウチらはショッピングモールに出掛けた。

 パパはその日、私の為にオシャレなバッグを買ってくれた。

 すごく嬉しかった、大人になった気がした。


「どうだ? 悠里、気に入った?」


「うん! パパありがとう!」


 買い物を終え、これからレストランで食事をしようと歩き出した……その時、悲鳴が奥の方から聞こえた。

 悲鳴の先を見ると、人々が手で体の一部を抑えていた。

 よく目を凝らしてみると、刃物を持った男が、こちらに向かって走ってきていたのだった。

 ウチは怖くなって、思わず叫んだ。


 すると、その叫び声を聞いて気が立ったのか、刃物を持った男がウチに向かってきた。

 このままじゃ死んじゃう……と思ったその時。


「ぐはぁ……」


 パパが体を張ってウチを守った。

 パパの腕に刃物が刺さっていて、そのままパパは男に回し蹴りをした。

 男は倒れ、周りにいた警備員が男を取り押さえた。


 ウチはパパの腕に刺さった刃物を凝視した。

 凄く痛そうだった、凄く苦しそうだった。

 ママもパパに駆け寄って、呼びかけた。


 ……パパは笑顔のまま、片手で私の頭を撫でた。


「悠里……お父さん、頑張ったよ……」


「……パパ!」


 パパはそのまま、目を閉じた。

 ……最初は死んじゃったと思った、でもその後救急車に運ばれて、奇跡的に軽傷で済んだらしい。

 その後、パパは警察から表彰された……らしい。

 ウチはこれ以降、傷口やグロい物が苦手になった。

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