第百六十二話 君らは子ども、それは違うぞ!

「悠里、怪我はないか?」


「……無いよ、別に」


「そうか……というかお前、こんな危険な事いつもやっているのか?」


「パパだって似たようなことやってるじゃない」


「俺は仕事でやっているが、お前はまだ学生だろう!」


「別に誰かを守ることに理由や立場は関係ないでしょ!」


「お前なぁ、俺は心配して言ってるんだぞ!」


「たまにしか話さないのに父親面しないでよ!」


 2人は口論を始めてしまった。

 ほらやっぱり恥ずかしがってるとかじゃなくてマジで嫌がってるじゃん。


「悠里! こんなことはやめるんだ! お前に何かあったら……」


「……なんなの? そうやって人の事縛り付けて……パパなんて大っ嫌い!」


「おい悠里!」


 悠里は基地の外へ出て行った。

 ……俺らの歳の女の子は父親に対して嫌悪感を抱くとは聞いたことあるけど、これはちょっとオーバーじゃないか?


「……というか翔琉くん! 君も同じことをやっているのかい!?」


 悠里のお父さんは俺らに向かってそう言った。

 ……家族公認なのか、翔琉と悠里の仲は。


「あ、これは、その……」


 翔琉は回答に困っているようだった。

 その時、門の外からサイレンと何かが擦れるような音が聞こえた。

 後ろを振り向くと、パトカーと冒険者のバギーやバイクが止まっていた。

 そして、例によって剣さんと春香さんがこちらに向かって手を振ってきた。


「よう! 同志諸君! 今回も解決したか!」


「ど、同志?」


 悠里のお父さんは困惑しているようだった。

 うん、そりゃ困惑するわ、俺はだいぶ慣れてきたけど。


「いやぁ! やっぱりお前たちは凄いな! さすがは俺らが認めたチームだぜ!」


 剣さんは俺の肩を叩いてそう言った。

 気まずい雰囲気だったので、いつもうるさいと感じる剣さんが今は天使に見える。


「……冒険者の奴らと面識があるのか?」


「は、はい……」


 翔琉は若干ビビりつつ返事をする。

 公認とはいえ、自分の彼女の父親って怖いものなのだろうか?

 そうこうしているうちに、悠里のお父さんは剣さんに近づいた。


「貴方……私の娘をどうするつもりですか? お宅は貧困層だけでは飽き足らず、子どもにまで犠牲者を出す気か!」


「なんだ? テメェら自衛隊は被害が無けりゃ一歩も動けないへっぴり腰の集まりじゃねぇか、そんなビビりどもに指図される筋合いは無ぇ!」


「なんだと……」


 剣さんは悠里のお父さんに向かってきた。

 これはまずい。


「ちょ、ちょっと剣! やめなさいって!」


 春香さんが間に入った。


「悠里はまだ子どもなんですよ! 子どもを戦わせるなんて、あなた方は何がしたいんですか!」


「……子ども? 俺はそう感じないがな」


「はぁ?」


「悠里ってあの弓の姉ちゃんの事だろ? あいつの活躍はまだ少ししか見てないが……いい戦士だとは思うな、俺らの業界じゃ、子どもどころか教えることが無いくらいだぜ」


「……」


 悠里のお父さんは、何も言えなくなってしまった。

 ……でも確かに、自分の子どもが戦ってるってなると心配にはなるよな。

 叔父さんも多分こんな感じなると思う。


「あの、よろしいですか?」


「……翔琉くん」


 翔琉が悠里のお父さんに話しかけた。


「悠里も、俺も、それにこの2人も、俺たちはチームで戦っています。それに悠里は弓の名手です、彼女がいなかったら、俺たちはガタガタになっていたでしょう。羽田さん、少しは悠里の事……信じてあげてください」


「……」


 悠里のお父さんは黙って翔琉の言っていることを聞いていた。

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