鍵スキル、ダンジョンに潜る～無能な鍵使いの俺、合法ロリと陰謀を解き明かす～

閑話 鍵使いの過去 その5

『一体何をやってたんだい！？　帰ってきたら、風呂場で昇くんが湯船に顔を突っ込んでてて……』

　叔父さんは状況が呑み込めないようだった。

『叔父さん……心配になったんだよ！　本当に大丈夫なのかい！？』

　その時、俺は気が付いた。

　……これでは、父さんと同じではないか。

　父さんも似たような状況だったのかもしれない。

　生活が激変して、急に自分が取り残された感じがして、頭が付いていけなくて。

　……だが、俺は父さんとは違った。

　ちゃんと心配してくれる人が、ずっと近くにいたのだ。

　意識がはっきりし始め、冷静になった俺は、咄嗟に口を開いた。

『……ごめん、風呂掃除やろうと思ったら、滑って転んじゃって』

　……俺はその時、かなり無理がある言い訳をした。

　恐らく信じてはもらえないだろう、状況的にそういうことをやっていたようにしか見えない。

　……どう言い訳しても、叔父さんは優しく受け止めてくれるのだろうと、最初はそう思った。

　だけど……。

『昇くん！』

『は、はい！？』

　叔父さんは血相を変えて、俺を怒鳴った。

　叔父さんの怒った姿を初めて聞いた俺は、つい敬語で話してしまった。

『良かった！　何ともなくて！』

『お、叔父さん！？』

　……そして、叔父さんは急に俺を抱きしめてきた。

『家の事やってくれるのはありがたいけど！　風呂掃除するなら足元に気をつけなさい！　わかったかい！？』

『う、うん……』

　……叔父さんは馬鹿正直に、俺の言ったことを信じてくれた。

　そうは思っていなかったので、俺は困惑してしまった。

『さぁ、風呂は叔父さんがやってあげるから、宿題やってなさい』

『う、うん！』

　まぁ、そう思われていないならいいやと思い、俺は平然を装って、風呂場を後にしようとした。

『ね、ねぇ……』

『なんだい？　昇くん』

『その……ありがとう、叔父さん……』

『うん！』

　俺はその時初めて、叔父さんを認めた。

　その後は、ずっと右から左に流していた授業を真剣に聞くようになった。

　スキルはゴミでも、叔父さんの役に立てようと思って。

　高校受験は、比較的学費の安い県立高校一筋にした。

　叔父さんは、「昇くんの学力なら、もっと頭のいい私立高校のほうがいいんじゃない？　学費なら出すよ？」と言っていたが、少しでも叔父さんに楽させたいと思った俺は、それを拒否した。

　そして、今の県立祇園高校に入学した、また新しい人生が始まると思った。

　……でも、ダンジョン探索の授業から、どこか劣等感を感じるようになった……陰口も、中学からずっと続いていた。

これでも、叔父さんのおかげで、少しは楽しくなったとは思うが……

「母は鍵スキルに認定された私に言ったんだ、『どんなスキルだろうが、体を張って打開策を見つければ、きっと世間は認めてくれる』とな！」

　シェダルの言ったことをふと思い出した。

　打開策か……腕輪がそうしてくれるのだろうか？

　シェダル……？　そういえば、俺、今まで何してたんだっけ……？