第五十二話 何この体勢!? 耐えろ理性!

  目が覚めると、どこかで横になっているようだった。

 まるで胎児のような体制で寝ているようで、頭に何か暖かいものを感じていた。

 左耳からは、小刻みに時を奏でるような音が聞こえ、細長い何かが、頭の周りに巻き付いて、それが脈打っているように感じた。

  状況を把握するのに、それほど時間は掛からなかった。


 そう、俺は……


「やあ! 起きたか! 昇!」


「シェ、シェダル!? こ、これはどういう……ていうかここどこ!?」


 俺はシェダルに頭を抱かれて寝ていた。

 距離を取ろうとも考えたが、力が入らなかった、いや、そもそも入れようにもできなかった。

 シェダル、体のわりに力が強い!? 


「ここは安息の地の寝室だ! お前、気絶してたんだぞ?」


「あ、そういえば……」


 俺は疲れからか、眠気に襲われてしまったらしい……シェダルの言う通り気絶したと言ったほうがいいのか?

 貧血するとそんな状態になると聞いたことはある……自分には縁がないと思っていたが、まさかそうなってしまうとは……。


「だからといって、なんでお前に抱かれてるんだよ!」


うなされている感じだったからだ、見てたら心配になってきてな」


 魘されている……確かに、変な夢を見ていた気がする。

 にしても、こいつ頻繁に抱きしめてくるな……シェダルは抱き癖(?)でもあるのだろうか?

 悪い感じはしない……が。


「恥ずかしいな……」


「まぁまぁ、抵抗しないということは嫌ではないんだろう?」


「そ、そうだけど……」


「ははは! やっぱりお前、可愛いな!」


「……」


 なんで可愛いって言葉をすぐに口にするんだろうか?

 偏見だが、女性は何かに対して、「可愛い」とすぐに言う傾向がある。

 例えばぬいぐるみや甘い食べ物に対して。

 この場合、恥ずかしがりつつも受け入れてしまう俺に対して使われたのだが、それを受け入れたくない自分がいる。


 そして他人の匂いというのは気になるもので、こうして密着すると、それがより一層深くなる。

 やはり、男の本能と言うべきか、シェダルの匂いに敏感になっていて、顔が熱くなっているのが分かった。

  同時に、左耳から聞こえるシェダルの心臓の鼓動と、肺から外に流れる空気の音で、俺の脈拍が速くなっているのが分かった。


「ははは! お前顔真っ赤じゃないか! 頭がどんどん熱くなってるぞ!」


「……うるせぇ」


「覇気がないぞ! 覇気が! ははは! 本当に面白い奴だ!」


「もういいから放せよ……」


 シェダルは俺を抱えながら笑った。

 こいつ、俺をからかうのが楽しいのか? ……嫌な感じはしないが。

 俺は照れ隠しをすることしかできなかった。

 だが、これ以上こういうことをされると、流石にまずい。

 主に俺の理性が!

 ここは男らしくビシッと言ってやろう。


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