第8話 本当の気持ち
卒業式当日。
学校に向かう途中ポストに手紙を出した。
『櫻 大輝 様』《さくら だいき さま》
お父さん宛に書いた手紙。
『ピアノに触れたこと』『心を閉ざしてしまったこと』
『みんなが私を変えてくれたこと』『はるちゃんの卒業式でピアノを弾くこと』
そして…
『お父さんのことをずっと信じていたこと』
お父さんが出ていった日からの思いを全部手紙に書いた。
私の気持ち…伝わるといいな⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯
いよいよ卒業の歌。
「伴奏は1年櫻菜穂」
私の名前が呼ばれピアノがある舞台に上がる。
3年生の先輩たちの顔がよく見える。
一礼をし顔を上げるとはるちゃんと目が合い私はニコッと微笑む。
ピアノの音が消えた後、鼻を啜る音や泣いている声が聞こえ、私の目にも涙が溜まる。
ピアノから手を離し先輩たちの前に立ち腹から息をいっぱい吸いこむ。
「先輩方、卒業おめでとうございます!」
体育館中に響き渡る私の声。
先生達ももちろんクラスのみんなも私の大きな声は初めて聞いただろう。
顔を上げると涙が溢れた。
「菜穂!ありがとう!」
はるちゃんが叫び拍手をする。
それに釣られ体育館に拍手が響き渡った⎯⎯⎯
卒業式も終わり、正門まで続く花道を通る先輩方が『伴奏ありがとう』と沢山声をかけてくれた。
「菜穂!」
はるちゃんが私の方へ走って向かって来る。
「はるちゃ…」
はるちゃんは私をぎゅっと抱きしめた。
私もはるちゃんの背中に手を回す。
「はるちゃん!これからもよろしくね。卒業おめでとう!!」
伝えたかった気持ちを伝えることが出来た。
そしてまた涙が溢れる。
「ありがとう…菜穂。やっぱ笑った菜穂が可愛い」
そう言い私の涙を拭う。
「あの〜すみません、俺の彼女なんですけど…先輩」
そう後ろから声が聞こえ私の体が後ろに下がる。
少し拗ねた水戸くんが私の肩を抱き寄せながら呟く。
「水戸…あ〜悪いな。可愛くてつい…」
「うわ!彼女いるくせに!菜穂の笑顔は俺のです」
そう言うと水戸くんは私を抱きしめた。
「おい。目の前でイチャつくなよ!」
笑って背を向けたはるちゃんはその場から立ち去った。
「はるちゃんありがとう…」
私は小さな声でボソッと呟いた。
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