第7話 笑ったね

 翌朝


「菜穂―?男の子が迎えにきているよ?菜穂の彼氏かい?」


 1階からおばああちゃんが叫ぶ。

 ん?迎え?

 急いで支度をしてドアを開ける。


「み、水戸くん!?」



 お家まで迎えに来てくれた水戸くんと学校に向かう。

 廊下で別れ教室に入った。




「おはよう菜穂!」


 美咲が教室に響き渡る声で私の名前を呼んだ。


「おはよっ!」


 すっきりした私の顔を見て美咲が微笑む。


「あの頃の菜穂に戻った。おかえり…菜穂」


 それは両親の離婚する前のうるさいくらいにはしゃいでいた頃のこと。

 美咲はその頃の私をずっと待っていてくれた。


「美咲、お待たせ!ただいま…」


 やばい…涙が出そう。

 涙を堪え、ニコッと笑う。




 教室にいるみんなの視線を感じる⎯⎯⎯


「櫻さん、おはよう」

「なんか雰囲気変わったね?」

「え、私…」


 美咲がぎゅっと抱きつき涙を流した。

 クラスの子たちも私と美咲の周りに集まり沢山いろんな話をした。


 今日1日でクラスのみんなと会話もでき、あの頃に戻ったような感じがする。



『櫻さん、おはよう』

『櫻さん、じゃあね』


 それから1週間ぐらいで同じクラスの子からすれ違うと声をかけてくれるようになった。







 放課後、音楽室で合唱曲の最後の練習。


「よし!」


「菜穂のその笑顔、やっぱり好きだな」


 ピアノを弾いていると音楽室に来るようになった水戸くん。

 面と向かって言われるとやっぱり照れてしまう。




 近くの公園に少し寄り道し、向かう途中にあったコンビニで買った肉まんを食べる。


 ブランコを漕いでいた足を止め私は水戸くんに話しかけた。


「水戸くん、ありがと」


 一言だけだが私は水戸くんに言いたかった言葉⎯⎯⎯⎯


 水戸くんがいたから変わることが出来て前に進めた。


 なんだかそれが嬉しくて口にした一言。


 自然に出た笑顔…自分でも笑っているのが分かる。


 水戸くんはおっきく目を見開いて私の頬を両手で覆う。


「あ、笑ったね…かわいい」


 ふっと視界が暗くなり唇に柔らかく温かいものが…

 口から離れた時に水戸くんが微笑む。


「菜穂、好きだよ…俺と付き合ってください」


 いつもより優しい声が耳に残る。

 顔を手で覆われているから目が逸らせない…

 自分の顔が熱くなるのが分かる。

 水戸くんの手に自分の手を重ねてこう言った。


「はいっ」


 そしてまた唇が重なる。

 熱くて長くて優しいキス⎯⎯⎯⎯⎯⎯

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