第6話 勇気と信頼

「菜穂ちゃん少し2人で話さない?」


 次の日の放課後、はるちゃんの彼女さんが教室まで来た。


「はるちゃんの彼女さん…」

「彼女さんだなんて…結衣って呼んでよ。」

「結衣さん」

「じゃあいこっか」


 にこっと微笑み私の手を引っ張った。


 駅から少し離れたおしゃれなカフェ。

 結衣さんはガトーショコラを食べながら話始める。


「菜穂ちゃんさ、昨日水戸くんのこと悪く言わないでって言ったよね?

 それって、彼を信じているからかな?」


「え、信じて…」


「もしかしたら、彼の自作自演かもしれないよ?」


「そんなことは!」


 結衣さんはニコッと微笑み話を続ける。


「私は直接話聞いてないから、彼がどう思って言ったかは分からないけどね。

 晴翔がね、彼が言ったことは嘘じゃないと思うって言ってたんだ」


「はるちゃんが…」


「うん、晴翔も私も水戸くんが悪いやつとは思ってないよ。

 水戸くんの周りにいるやつが菜穂ちゃんを傷つけるんじゃないかって思って心配してたの。でもね、私たちは水戸くんを信じてみる事にしたの」


 はるちゃんも美咲さんも心配してくれていた…


「菜穂ちゃんさ、一緒にいるお友達も晴翔のことも信じてる?

 菜穂ちゃんの周りの人は菜穂ちゃんを信じているんじゃないかな。

 人を信じるってね、いつか裏切られるかもしれないって私も思う。

 でもね私は、晴翔を信じてみようと思ったんだ」


 そうだ…

 美穂は私が守るって言ってくれた。

 はるちゃんだって私を気にかけてくれている。

 お婆ちゃんもお父さんを待っているって言っていた。

 水戸くんだって…私を助けてくれた。


 黙り込んだ私の手をぎゅっと握った結衣さんの目からは今にも涙がこぼれ落ちそう。


「菜穂ちゃんにもっと信じてほしいってみんな思っているし、もっと頼ってほしい。

 でも、人に言われて信じる信じないじゃなく、自分で決めるの…

 …」



 自分で決める…


 そうか、お父さんは自分に言い聞かせていたのかな…

「私が言えるのはここまで」と結衣さんは言った。





 先輩に呼び出された日から水戸くんとはすれ違うこともなく1週間が過ぎた。





「お婆ちゃん、お父さん帰ってくると思う?」


 私からお父さんの話をしたのは3年ぶりくらいだろう。

 お婆ちゃんはびっくりした顔をしたが話はじめた。


「信じているさ、菜穂のことも忘れてなんかない。

 菜穂には話していないがたまに手紙が届くよ、『菜穂は元気か?』って心配してる」


 え?お父さんが…

 お父さんのことを心の奥では信じたいと思っていた…

 『私だけじゃない』そう思い、目頭が熱くなり視界がぼやける。


 その手紙を受け取り部屋へ戻る。

 手紙はお父さんが帰って来なくなった時から送り続けているのだろう。

 手紙は全部で10枚ほどあった。

 それを一枚ずつ読みながら思う…

 どれだけ、私を心配しているのか。


『誕生日』『受験』『卒業式』『入学式』


 ずっと私のことを…

 涙が止まらず手紙を読み終えたと同時に、泣き疲れてそのまま寝てしまった…






 翌朝、目の下がすごく赤い…

 ぼーっとしながらも学校に向かう。


 昼休み、一緒にご飯を食べる美咲が聞いてくる。


「なんかあった?」


「お父さんから手紙届いていた…」


 卵焼きを掴もうとした箸を止め、


『今から変わればいいよ』


 そう言い美咲が話し続ける。

 

「菜穂は菜穂だよ。自分が思うようにしてごらん?

 私にだって、白井先輩にだって…

 それにさ…水戸旭、彼のおかげで菜穂が変わろうとしているじゃん!

 大丈夫、今からでも遅くないよ」


 美咲はそう言って食べようとしていた卵焼きを食べる。



 昼休みが終わってからも美咲が言っていたこと、お父さんからの手紙が頭から離れない。





 なにも手につかず、気がついたら放課後。

 顔を机に乗せ目を閉じた⎯⎯⎯⎯⎯



 どのくらい寝ていたのだろう…頭に暖かさを感じ目が覚めた。


「水戸くん…」


 沢山突き放したはずの彼が私の目の前にいる。

 私の目からはすーっと涙が流れた。


「なんでいるの…」


 水戸くんは優しい顔をして私の頬に手を当て涙を拭う。


「泣いていたみたいだから」


 優しい声と少し悲しそうな表情の水戸くんに胸がぎゅっと苦しくなった。



 美咲に言われた言葉を思い出す。





「水戸くん…この前は助けてくれてありがとう。

 冷たくして…避けてごめんなさい。

 沢山傷つけてごめんなさ…」


 ガタンッ⎯⎯⎯


 私の言葉を遮るように水戸くんに抱きしめられた。


「それってさ、俺の気持ち受け止めてくれるってこと?信じてくれるってこと?」


 抱きしめられる力も強くなる。

 それと同時に彼の鼓動が聞こえる。


 すごく早い心臓の音…


「う、うん」


 私から離れ、目を見つめる。


「ありがとう」


 水戸くんはそういうと私の頬に軽くキスをした。


 まただ…

 自分の顔が熱くなっているのが分かる。

 私は顔を手で隠した。

 ふふっと笑いながら水戸くんは私の頭を撫でる。


 日も落ち暗くなってきた頃、水戸くんはお家まで私を送ってくれた。

 家の前に着いた時、ちょうど隣のお家からはるちゃんと結衣さんが出てきた。


「あ、菜穂ちゃん」


 私の隣にいる水戸くんに目を逸らし微笑む結衣さん


「結衣さん、この前はありがとうございました!!」


 私は結衣さんの前に走り手を握り締め言った。


「水戸くん?菜穂ちゃんよろしくね」


 結衣さんは水戸くんの方を見てそう言った。


「任せてください」


 水戸くんはそう言いはるちゃんを見る。


「泣かすようなことがあれば許さないからな」


 はるちゃんも水戸くんにそう告げた。

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