第2話 一目惚れ

 高校生になった私は今も変わらず笑顔はなく口数も少ない。

 そんな私には幼馴染がいる。

 牧野美咲まきのみさき


「おはよ菜穂!」


「あ、美咲おはよ」


 あの日の後も変わらずいつも通りに話しかけてくれる。

 それは、幼稚園の頃から今もずっと…




「ねー聞いてる?なーほ!!」


「あ、ごめん。なんだっけ?」


「だーかーらー、あいつから話しかけられたんでしょ?」


 高校生になって半年、放課後学校を出たところである人に話しかけられた。



「俺、一目惚れしたかも…」


 なんだこの人は…


「あ…ありがとうございます…」


 その場から立ち去ろうとした時…

 手を掴まれ、後ろにグッと引っ張られる。


「名前なに?俺、水戸旭みとあさひ


 目を細めてニコっと微笑みながら優しい声で聞いてくる。


「き、気持ちだけ受け取ります。私に関わらないでください」


 冷たい言い方かもしれないけど、それが私の精一杯の言葉…


 それから、教室に来たり放課後下駄箱の前で待っていたりと絡まれては突き放すを繰り返す日々が続き、目立つこともなく大人しく過ごしていた私はちょっとした有名人。


『あの女誰?』

『あいつのどこがいいの?』

『笑わなくて怖くない?』




「菜穂、目立っちゃったね〜」


「ほんと…からかうなら他当たって欲しい」


 ため息をつきながらそんな話をしていると、『噂をすれば現れる』は本当らしい。


「よ、櫻菜穂ちゃん。今いい?少し話さない?」


 周りの目も気にせず、他クラスの教室に堂々と入ってきた水戸くん。


「無理です。今、お昼食べているので」


 そう言う私に首を傾げる美咲ちゃん。


「なに言ってるの?食べ終わってんじゃん。話してきなよ」


「なっ!!」


 『美咲ちゃん、なに言ってんの!?』

 そう私は目で訴えたが美咲ちゃんは私だけにわかるようニヤリと笑った。


『やられた!?』


「行ってら〜」と笑顔で送り出す美咲に、水戸くんは「ありがとう」と私の手を引っ張った。




 水戸くんに手を引かれ着いた先は…


「音楽室…」


 なんで?と思っていると、水戸くんは教壇に座った。


「男嫌い?」


 男嫌い?私が?

 確かにそう思われても仕方ない。

 正門で話しかけられてからかれこれ3ヶ月ほど避け続けている。


「どうして…名前知ってるんですか?」


「ははっ、質問と違う返事するね」


 笑いながらそう言う水戸くん。

 ここまできたら逃げられない…。


「男の人、女の人関係なく関わりたくないので話しかけないでください」


 これで諦めてくれるだろう。

 私に一目惚れ?

 馬鹿馬鹿しいそんなことあるはずもない。



「本当は信用したい…けど怖い…違う?」


「…あなたには関係ないです」


 本当は信用したい…けどそれだと…

 水戸くんに私の心を見透かされたようだ。


 教壇から立ち上がり私の目の前で立ち止まった。


「ピアノ弾いているときの菜穂が本当の菜穂だろ?俺、その櫻に一目惚れしたんだ」


 その瞬間、頬に柔らかく温かいものが…


 え?


「僕にもその笑顔見せてよ。俺、菜穂がなんと言おうと諦めないから」


 彼は私の頭を撫で音楽室から出ていった…。




 ん…今、何が起きた…?

 確かほっぺた…

 頭が追いつかなく理解した今、顔が赤くなった。

 え!?なにあの人!!



 その後の授業は記憶にない。

 気がついたら放課後になっていた。


「菜穂〜クレープ食べに行かない?」


 ぼーっとしている私にそう声をかけてる美咲。


「あ、でも今日水曜日だから音楽室行くよね?」


 確かに水曜日…

 でも、弾いているの見られて…昼休みの…思い出して顔が熱くなる。


「音楽室行かないよ!!クレープいこ!」


 また鉢合わせるかもしれない。

 そう思い音楽室には行けなかった。



「んーー!おいしっ!」


 いい笑顔だな〜

 美咲の美味しそうに食べる笑顔を眺めながら向かいの椅子に座る。


「昼休みのこと聞かないの?」


「ん〜?まぁー、あの後から菜穂ずっと変だったけど…

 まっ、菜穂が話したいって思ったら話してよ」


 あの日より前から一緒にいた美咲は私のことはなんでもお見通しだ。




 クレープを食べた後、小学生の頃よく遊んでいた公園に向かう。

 小学生の頃のようにはしゃいで遊び、ブランコに座って漕ぎながらお昼休みのことを話す。



「ピアノを弾いている私が好き。

 俺にもその笑顔見せて、諦めないからって言われた」


「へ〜あいつがそんなことを…」


「うん…俺は諦めないって言っていたけど、私は信じるのが怖い…」


 勢いよくブランコから降りた美咲は俯いた私を抱きしめ自信たっぷりの笑顔でこう言った。


「大丈夫!何かあったら私が菜穂を守るよ!」

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