02 夢

夜の渋谷の街に6年ぶりに戻ってきたシュウ。


行く宛もなくぶらつく。


ネオンが光煌めき、人の勢いも盛んとなる。


夜空は青く光り、低空には赤い点が数個点滅していた。



夜空にあるはずの「星」が見えない。


 星が見えない……か…


 あっちではそんなことなかったよな…


そんなことを想い、

ふと異世界のことを思い出した…

目から水が滴り落ちるのが分かった______




________________________________




6年前のある日、通勤ラッシュの電車内で…

周りは人の塊。

駅に停車すると、人の波が出来上がる。

そんな、いつもの光景、当たり前の景色。

プラットフォームに流れ込んでいく黄緑の電車。かれこれ15年は見ただろう見慣れた電車だ。



ドアーの横に並んで、降車する人を先に通す。

その人たちが降り終わり、ドアーに足を入れた。

その瞬間




(やめておけ)




本能が、この電車に乗るなと警告するのがわかった。




(やめておけ、やめておけ、やめておけ、やめておけ、やめておけ、やめておけ、やめておけ、やめておけ、やめておけ、やめておけ、やめておけ…)






「______っ!」






ほんの少しの躊躇、それが未来を変えることはよくある。


このときも例外ではなかった。

乗る人々の流れに逆らえず、電車内へと押し込まれる。

混雑した車内で、かろうじて空いた席に座る。




(やめておけ…)




少しして、あることが分かった。

 

 これは本能ではない。

何者かが、自分の脳内で囁いているのだ。

どす黒い低い声。男の声だ。




(やめておけ…)




(誰だ?)




(やめておけ…やめておけ)




(誰なんだ?)


(やめておけ…やめておけ、やめておけ、やめておけ)


(やめておけ…やめておけ、やめておけ、やめておけ、やめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめておけやめt)


「次は〜池袋、池袋です」




車掌のアナウンスで我に返る。




 何だったんだ…今の…




頬には脂汗がたれ、顔は真っ青だ。




(やめておけ…って言ったのに…)


あの低い声がつぶやいた。




(クックックッ…)


笑い声がする。しかし、あの低い声とは違う別の声だ。




「____________っ!?」


その瞬間、視界が歪んでくる。世界が回り始め、混沌を纏う。




フッ________




そして、暗黒が訪れた。




______突如、視界を失う。




暗黒の中に葬り去られたシュウ。




視界は無いが、物凄い嫌悪感を抱く物質が近づいているのがわかった。


(くっ…!?なんだ……この感覚…嫌だ…嫌だ、嫌だ、嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌d)








____________________________________________




シュウは転生した。






目が覚めすぐに違和感に気づいた。


電車内じゃない。




しばらくして脳が覚醒する。




この世ではないどこかということは分かった。




 (どこだ…?ここ…ヨーロッパ、地球…この世界では無いな…)




脳をフル回転させ、理解しようとする。


しばらくして、状況の整理がついた。






 (睡眠と覚醒の間で誰かが何らかの方法により、世界を移動させた…?)


 (とにかく、周りを歩いて状況判断をしなければ…)


サラリーマンで培った、状況把握能力が発揮する。


そんな感じで、王城通りを歩くことになった。


ある門を過ぎたところで豪華絢爛な鎧を着た兵士2人がこちらを指差して、なにか喋っている。



(なんだ…?…………あれ?)

(くらくらする…目眩…か…)




腹が大音量で鳴った。


 (最後に飯食ったの…いつだ?)


そして意識を失い、倒れた。


「知らない…天井だ…」


目を覚ましたシュウはそう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る