XVII.知らないうちにバラバラになってたなんて聞いてないぞ
最果ての森手前———
「諦めんな。端から確実に消していけ。後ろにまだ戦えるやつはいる。数はいないから少しでも幅を狭めろ」
ラオが立ち呆けていたイリにそう言った。
イリはハッとしたように声がした方を振り向くもそこにはもうラオの姿はない。既にラオは大軍の群れの片端を確実に倒し切っている。イリは反対側の端に向かった。
「あっちに行っても邪魔なだけ。数を減らすなら僕はこっちの端を少しだけでも削るんだ」
イリは範囲としてはそれほど広くはないがそれでも確実に倒し切っている。
「やっと追いつきましたよ、イリちゃん」
「ルナ姉ちゃん、なるべく広く倒してほしいってさっき言われたんだけど、僕一人の限界がこれで、ルナ姉ちゃんどこまで広げていい?」
「あと3倍は大丈夫です。『
ルナはイリを強化した。
イリは言われた通りに攻撃範囲を3倍にした。ルナの強化のおかげかほとんど取りこぼしがない。
「イリちゃんもう少し広げても大丈夫ですよ」
「分かった!」
最果ての草原———
ラオ、ルナとイリが数を減らしているとはいえ、全体の半数を超える数が草原まで出てきている。
「5人術師、5人剣士で、俺1人盾職か。言っとくぞ、一人あれをせき止めるの無理だからな」
「そんな非道な事させるわけねいだろ」
「大剣3人も盾みたいなもんだろ」
「術師は全員にバフかけるだけで攻撃のことは考えなくてかまわない」
「じゃあ、前衛4人、中衛2人、後衛5人?」
「そんな感じだな」
勢いで決まった陣営でモンスターと戦うことになった。当然互いの得意不得意を理解しきれていない状況なのでカバーのタイミングや無駄な動きが多くなってしまっている。
最果ての森手前-北部———
ラオはイリとルナが二人で食い止めている数の3倍近くを一人で食い止めていた。
「これ、いつになったらキリが付くんだ? 森の中に入るべきか? いや、入ればこいつらを捌ききれない。ただでさえこいつらも強くって来ているんだ」
ラオの攻撃は雷の様な斬撃で縦横無尽に移動して、確実な急所だけを一撃で斬り裂いて倒している。
「数が減った? これなら森に
モンスターが急にいなくなったのでラオは森に入ろうとしたが、目の前には巨大な黄色の竜が居て入れない。
「これは、一筋縄ではいかないな」
最果ての森手前-南部———
ルナはイリに常に強化魔法をかけ続け、イリが倒し切れなかったモンスターに止めを刺している。
「ルナ姉ちゃんもういないよ。アイト兄ちゃん探しに行こう」
「いえ、ダメです。ルナたちにはこれは倒せない」
イリはルナの目線の先を見ると、巨大な青い竜がいた。
「僕たち、これに殺されちゃうの…?」
最果ての草原———
大量の魔物たち相手になかなか統制が取れない冒険者たちは食い止めることしかできないでいる。
「『
後方支援をしていた一人の魔術師が攻撃魔法を出した。
「おい、攻撃しないでいいって言ったろ」
前衛から作戦と違うことを指摘される。
「みんな周りが見えてないんだ。こいつらは早く倒さないと確実に全員死ぬ」
「なんで?」
横にいる術師も気付いていない様子だ。
「少し視界を上げてごらん。
全員が気付いた途端、少し離れた場所から赤い竜が炎を吐いてきた。冒険者たちはそのまま炎に飲み込まれてしまった。
果最国-爆天州———
ロノスとゾーノは冒険者ギルドの屋上から草原を見ていた。
「ゾーノ君!」
「分かってる。
「頼んだよ」
ゾーノはロノスがそう言う前にはそこには居なかった。
すべてはその一瞬の間に終わっていた。ゾーノは一瞬でモンスターを蹴散らし、竜を真っ二つに斬っていたのだ。
最果ての森手前-北部———
ラオは突然現れた竜にも迷うことなく斬りかかった。しかし、斬撃が通らない。足でさえ断ち切れなかった。そのまま蹴り返されたように飛ばされた。
「こいつ雷効かないのか。仕方ない。なら、焼き切る!」
今度は燃えるような斬撃で足を一つ斬りおとした。
「渾身の一撃で切断面以外ダメージなしかよ。炎だと雷の機動力が出ねんだよ」
ラオはそう言いながらももう一本足を切り落とした。竜はまだ何とかバランスを保っていられるようだ。
「立つの限界か? ならば、死ね!」
ラオは竜の首を何とか斬りおとした。
最果ての森-南部
「イリちゃん逃げるよ。攻撃はしなくていい。攻撃を避けつつ街に近づけ過ぎないようにして逃げよう」
「避けるので精一杯だよ!」
二人で撹乱しているがそれでも避けるので精一杯のようだ。ルナもあまり余裕がない。
「
突然イリとルナは水の球に包まれた。すると竜の攻撃は一切当たらなくなった。
「やっと見つけた。二人とも下がっといて」
逢兎は二人を軽く草原の方に移動させて水玉を弾けさせた。
「アイト兄ちゃん」
「アイト…さん。良かった、無事で」
イリとルナは泣くほどに喜んだ。
「ああ、もう泣いちゃう? もう感動の涙出しちゃう? まだ戦ってる途中だよね? 俺も泣きそうになるからやめて?」
逢兎はそう言いながら竜の背中に乗った。
「
逢兎は竜を燃やした。燃やし尽くしたのだった。
「アイト兄ちゃんよかったよ~」
イリは思いっきり逢兎に抱き着こうとした。
「いっだーーーーーい!!!」
逢兎の体に障った瞬間イリは大泣きしながら蹲った。
「え、俺何もしてないよね?どうしちゃったの?」
逢兎はルナを見つめる。ルナはイリに駆け寄る。
「大丈夫?」
ルナがイリの手に触ると、
「痛いっ」
ルナは逢兎の方を見る。逢兎はイリの方に視線を移す。
「『鑑定』」
逢兎はイリの腕を鑑定してみた。
状態異常:複雑粉砕骨折・火傷
逢兎は目を疑った。目というよりスキルを疑った。
「どんな戦いしてたの? 滅茶苦茶に折れちゃってるみたいだけど。火傷は多分俺が燃えて熱々になった体に触ったからだろうけど…」
逢兎がそう言うと、ルナはハッとしたように口を開いた。
「イリちゃんはずっとすごい勢いで殴ってました。ルナが強化したまま」
「絶対そのせいじゃん! イリ無理しないって約束したよね? ルナもイリを守るって約束したよね?」
逢兎がそう言うと二人とも「ウッ」っとして黙り込んでしまった。
「ま、死んでなかったらいいけどさ。取り敢えずイリ立てる? 無理でも立ってほしいけど」
イリは頑張って手を使わずに立ち上がった。
ルナも立ち上がろうとすると今度はルナが倒れた。
状態異常:魔力切れ
「ルナ、強化魔法ずっと使い続けてたの?」
「はい。そうじゃないとイリちゃんもルナも死んじゃいそうだったので」
逢兎は大きくため息をついて、全身を水で包んで体を物理的に冷やした。「ジュー」と鳴るほど体に熱がたまっていた。
「ルナは俺が背負っていくから、街に戻ろ」
三人で街に戻ろうとしたとき、ラオがやって来た。
「見ない顔が一人増えてるね。まあいいや。一つ聞きたいんだけどさ、さっきの揺れ何?」
逢兎は揺れに気付いていなかったので知らないといった表情だ。ルナはビクッと少し反応を見せた。イリは目がすごい勢いで泳いでいる。
「えっとね、あれはね、僕が、その、地面に、ドカーンってしたらね、地面がグワワってなちゃったの」
イリは動かせない手を必死に動かしているつもりで表現した(できていない)。
「意味が分からない。君があの揺れを起こしたって言うのか?」
ラオは少し困惑したように問う。
「う、うん……」
イリは少しおどおどしながら首を縦に振って返事をした。
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