II.助けた獣人娘はしっかり者の熊娘だった
森の中に放り出された逢兎は、しばらく動かずにいた。袋の底が湿り切っている。運ばれている時も袋の底から漏れ出ていた。運んでいた男も最後は
逢兎が袋から出てきたのは一晩明けた後だった。
「お腹すいた。何か食べ物ない?」
目が充血していて腫れている。
逢兎は袋の中を漁る。中から出てきたのは、白いローブ、木の杖、皮の小袋、人の手が左右3つずつだけだった。
「この手、もしかして…」
逢兎は唖然とした表情で固まった。その手は彼は何度も見たことがある手だった。家族の手だ。恐らく手首で千切れていた部分を隠して一緒に入れられたのだろう。
逢兎は無心に手を抱きかかえ、うずくまり号泣した。彼は涸れ果てた涙を流し、血涙を流している。
逢兎は泣き止むと小袋に手を伸ばした。
「何か入ってないかな」
そう呟きながら逢兎は小袋に手を突っ込んだ。小袋は逢兎の
「なんでこういうのだけファンタジー要素になるんだよ。てか、この装備、俺は魔法使いにされたのか? 絵に描いたようなつだな。アニメとかのよりは絵画とかの方がイメージとしては近いな」
逢兎は完全に心を失った声で呟いた。呟きながら装備を身に着ける。ローブを纏い、杖を持ち、小袋を腰につるした。家族の手は小袋にしまって持ち歩くことにしたようだ。
「あの男のせいだ。あの男が俺を、俺たちを召喚したせいで、みんな死んだんだ。あいつだけは、絶対に俺の手で殺してやる」
そう言いながら逢兎は木の杖を強く握りしめた。
「それはそうと、腹減りすぎて何もする気が起きないんだよな~。どっかに飯でも落ちてねぇかな」
そう言いながら逢兎は周囲を見渡す。見渡す限り木しかない。
逢兎は足元の雑草に手を伸ばすも、寸前で手が止まる。たとえ拾えたとしても、口に運ぶ途中で落とす。
少し歩くと茸が生えていた。見た目は毒々しいが、どんな茸なのかは見てすぐわかった。
「『最果ての茸(食用) 効果なし』って、一応食えるのか? あの〇〇堂のスーパーマ〇〇に出てくるような紫色の茸だぞ。これで食用って言われて出されても普通に食べたくないんだけど? なんでこんな茸が食用に分類されてんの? この世界者は自殺志願者ばかりなの? それとも事実食用なの?」
そう言いながらも逢兎は茸を手に持っている。○○堂のスーパー○○〇の毒キノコだったら触るだけで死んでいるだろう。
「別に赤でも食べないよ? だって、食べると大きくなれる赤いキノコのモデルは幻覚を見る毒キノコでしょ? だったら赤でも紫でも変わらないよ。死ぬか自分が大きくなったって錯覚するかの二択じゃん。もしかして、『食用』って『観賞用』じゃないって言いたいだけなのかな? それだったら保留にするしかないよ? どこかに『毒物』とかって書かれてるものがない限り食べられないよ? よし、ひとまず保留だ。絶対に毒じゃない証明ができないなら食べるのはやめておこう」
考えが全部口に出ている。逢兎は一人だからそのことに気付いていないのだ。
逢兎は拾った『最果ての茸』は小袋にしまった。しまったというよりかは投げ入れていた。
一日半の間、飲まず食わずでいた逢兎は遂に限界を迎えた。さっきしまった『最果ての茸』を取り出した。小袋の中身は未来の耳をかじり消された猫型ロボットのポケットの要領で取り出せるようだ。
「このまま何も食わなくても死ぬならいっそのことこいつに賭けてみるか。毒茸でも死ぬことに変わりはないんだからな!」
逢兎は覚悟を決めて『最果ての茸』を一口で食べた。咀嚼も最低限にして飲み込んだ。
「美味い。ていうか、なんで俺はこんなうまいものを食べようとしなかったの? 戻ればもっといっぱいあるよね? 保存食にするから全部積んじゃおう。そもそも人間がそんな簡単に死ぬわけないんだから食えばよかった。俺は何にビビってたんだよ。採りに戻るのメンドイんだけど。てか、さっき『最果ての茸』って何の違和感もなく見てたけど、これって鑑定系の能力があるんだよね? じゃあ自分を見てみればいいじゃん」
逢兎は一人でいると考え事も何もかもを口に出す癖がある。逆に人前だと陰キャ過ぎて何か言われないと何も言えないのだ。
逢兎は『最果ての茸』を採るために進んできた道を戻る。しかし、茸が全然見つからない。適当に歩いていたせいで元居た場所に戻れなくなったのだ。元から方向音痴の逢兎は、考えなしに歩くと絶対に元の場所には戻れなくなるのだ。特に目印の無い森の中では。
逢兎は道を戻るという命題で森を彷徨っていると川に出た。
「川だ。この川の水って飲めるのか? いや、飲めなくても飲めると信じて飲んでみよう! さっきの茸だって食べてみれば全然大丈夫だったし。流石に水で死ぬことはないだろ。これだけ透き通ってる水なんだし」
川の水を飲むのは衛生上あまりよくないので推奨されたことではない。それでも一日半何も飲んでいなかった逢兎はそんな事気にしていられなかった。何せ人間は3日水を飲まないだけで死ぬと言われているのだから。本能的に止められなかったのだろう。
「プハー。生き返るー」
逢兎は顔を川に潜らせて川の水をゴクゴクと飲んでいる。
休憩も一段落して、逢兎はまた森の中を
「嬢ちゃん、こんな所で一人で何してるんだい?」「ここが俺たちの縄張りだと知っててうろついてるんじゃないだろうな?」
「えっと、その、僕は……」
魔人2人に絡まれている獣人はかなり怯えている。
逢兎は何も言わずに魔人を一人殴り飛ばした。もう一人の魔人も殴り飛ばそうとすると、避けられた。危うく獣人の少女を殴りそうになっていた。
「貴様、一体何者だ」
「自己紹介とか嫌い。てか、人に名前聞く前に自分から名乗れよ」
逢兎は
「貴様、覚えてろよー」
そう言って逢兎に殴られた魔人は
「お、お前、そんな事したらレイバル様に怒られるぞ。あっ、お前……」
追いかけるようにもう一人の魔人も走り去った。逢兎は一瞬の出来事に何もできなかった。
「何かよく分かんないけどまぁいっか。あれ? 俺どっちから来たっけ? どうでもいいや。いつか何処かに流れ着くでしょ」
周りを見渡しながら逢兎はそう言って適当な方向に進みだした。
「あの!」
「ん? どうかした?」
獣人の少女が逢兎に声をかけてきた。逢兎は素っ気ない返事をした。
「えっと、そっちは、今お兄さんが飛び出てきた方ですよ。それと、助けてくれて、ありがとうございます」
「あー、俺こっちから来たんだ。てか、別に俺は感謝されるようなことはしてないけど。じゃあ、俺はもう行くね」
そういって逢兎はその場を立ち去ろうとした。
「待って! あの、僕も、僕も一緒に行ったら駄目ですか? いや、迷惑なら別にいいんですけど、その、あの……」
「いいよ。ていうか、ダメって言ってもどうせ着いてくるでしょ?」
「え、そんなことは……」
「てか、俺一人だと森から出られないし、道分かんないから」
「そうですか。分かりました」
獣人の少女は安心したように逢兎に抱き着いた。
「えっ、ちょ、ま……何?」
「僕はイリ。お兄さんの名前は?」
「え? ああ、俺は逢兎」
「アイトって言うんだ。じゃあアイト兄ちゃんだ! よろしくね」
イリは満面の笑みで、
「お、おう。じゃあ行くぞ」
「アイト兄ちゃん!そっちじゃないって! さっきも言ったじゃん!」
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