第57話 桜散り始め
庭に出て日向ぼっこするナナさんとコロは、時折吹く強い風に散っていく桜を物悲しく見つめていた。
「風が強いね。桜の花が雪みたいに飛んでくるよ」
コロは桜の花が飛んでくる方を見つめた。塀の向こうから、近所の桜から花びらが庭に沢山降ってくる。
風に舞う桜の花は風に揉まれながら、空に舞い上がりながら、遠くへ流れていく。
コロとナナさんが桜を目で追っていると、空に小さな黒い点が現れた。それは時折、強風に煽られて流される。徐々に近づいて来たそれはカラスのヤタだった。
ヤタは風に負けない様に力強く羽ばたいて来る。コロ達の所に着いた時にはヤタは息が切れていた。
「やあ、ヤタ。風が強い中頑張ったね」
「こんな風の中無理して来なくても良かったんじゃ無い?」
ナナさんが呆れながらヤタに言う。
ヤタは少しの間、何も答えず息を整えていた。
「いや〜、実はそろそろ旅に出ようと思ってたんです。天気が良いうちに挨拶しときたくて」
「ヤタも行っちゃうんだ」
コロの寂しげに呟く。
「おいおい、辛気臭い顔するなよ。別にこれが最後の別れじゃ無いんだしよ。それにチュー太も元気にやってるみたいだからさ。先輩として負けてられねぇぜ。また面白い話を手に入れてくるからさ」
ヤタは明るく笑う。そして、何かに気づいたらしく、クリクリの目をコロに向けた。
「コロ坊もさ、何か面白い事を探しといてくれよ。俺やチュー太、モグリにその面白い事を教えてくれ」
そう言われて、コロは小さく頷いた。
「この前、ご主人と桜を見に丘に登ったじゃない。それをヤタに教えてあげれば?」
ナナさんがコロの横から話を振ってくれる。
「そうだった。僕達桜を見に行ったんだよ。しかも、桜を見ながらおやつ食べてね〜。美味しかったよ」
コロはあやつを思い出したのか、涎を垂らしてしまう。
「コロ坊は花より団子だな」
「どう言う意味?」
コロが不思議そうに尋ねる。
「花とか景色とか目で見て楽しむ事より、食べる事が好きだって諺だ」
ヤタが胸を張って自信満々に言う。
「違うわよ。風流とか風雅を理解しない人に対する蔑みの言葉よ。趣深い事より安直な楽しみを好むって、意味で使われているじゃなかったかしら」
「へぇ〜」
コロが理解してるのか、していないのか曖昧な返事をする。
「姐さんは本当に何でも知ってるな」
ヤタが称賛の眼差しをナナさんに向ける。
「そうだ。思い出した。確か山桜に関して何か話を聞いた事があった様な気がする…」
「何?面白い話?」
コロが食い付く。
「あ〜、思い出すから少し時間をくれ」
そう言うとヤタは空を見上げて黙り込んだ。
猫と犬で @benzai
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