第55話 丘の上
風が吹くと数枚の桜の花が散る。
コロとナナさんはご主人と一緒にそのさまを見ながら丘を登っていく。
ひらりひらりと落ちていた桜の花がナナさんの頭に止まった。
「あら、可愛い。桜からのプレゼントね」
ご主人はそう言うと、首から下げていたカメラでナナさんを撮る。
ナナさんも満更では無さそうだった。
「ナナさん、良かったね。可愛いって」
コロが言うとナナさんの猫パンチが容赦なく飛んでくる。
「うるさいわよ」
頭を小突かれたコロは苦笑いをしながら、ナナさんから距離を取る。そして、前足で自分の頭をさする。たん瘤はないようだ。
ご主人は桜の木を色んな角度から写真に収めている。
コロも桜の木に近づいて下から仰ぎ見る。満開では無いがそれでも沢山の花が咲いており、空の一部が覆い隠されている。空の青色と桜の淡いピンク色がとても綺麗だった。
「写真撮るのに夢中になっちゃった。さあ、登ろうか」
ご主人の言葉でコロとナナさんは歩き始める。気持ちの良い風が流れていく。
丘の上にはちょっとした広場があって、桜の木が広場を囲うように植えてあった。何人か人がいるがスペースが空いていたので、ご主人はレジャーシートを広げてそこにコロとナナさんを座らせる。
「いい。ここから出たら駄目だからね」
ナナさんはご主人の言葉を聞くとシートの上に横になった。
「あんたも大人しく座りなさい」
ナナさんに言われ、ソワソワしていたコロも大人しく座る。
「お水は飲む?」
ご主人がリュックの中から入れ物とペットボトルに入った水を出してくれる。
ナナさんもコロも横に並んで水を飲む。ほっと一息ついた。
その間にご主人は水筒からコーヒーを出し、お昼のサンドイッチを取り出すと美味しそうに頬張る。
コロはご主人を見て涎を溢している。
そんなコロを見て、ご主人は笑うとリュックからおやつと取り出してくれる。
「おやつだ!」
コロは一瞬で背筋を伸ばす。
「お利口さんなコロにおやつですよ。お座りはしてるから、お手。おかわり。そして、バーン」
いつものルーティンを問題無くこなして、おやつをゲットする。
「よし!」
ご主人の声と同時におやつに飛びついた。
「ナナさんもどうぞ」
すんなりと渡されるナナさんには目もくれずにコロはおやつを食べていた。
「もう春だね〜」
そう言いながら、コロとナナさんを見つめるご主人はコーヒーを一口飲んだ。
おやつを齧りながら、外で食べるのも悪く無いなとコロは思う。何だか凄く満足な気分だった。
皆んなで少し違う所でちょっと違う事をする。それだけで良いんだと心から思った。
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