第50話 春の嵐

「今日は天気が悪そうだね」

 コロが窓の外を眺めつつ、誰に言うでも無く呟く。窓の外は薄暗い雲がうねる様に流れて行く。

 キャットタワーの上にいたナナさんは耳だけを動かして、コロの言葉を聞いている。

「どうして春には雷が鳴るのかな?」

 今度はしっかりとナナさんの方を向いて尋ねる。

 ナナさんはコロの視線に気付いたのか、身体を起こすとコロを見下ろす。

「春の嵐が起きるからよ」

 欠伸とともに言いながら身体を伸ばす。

「じゃあ、どうして春に嵐が起きるの?」

「春は暖かい空気が南からやってくるのよ。でも、北には冷たい空気があって、その二つがぶつかって嵐になるのよ」

 ナナさんの言葉を聞いてコロは気付いた。

「そうか。暖かくなって来てる証拠なんだ」

 コロの嬉しそうな声に被さる様に、閃光が部屋を埋め尽くした。

 驚いたコロが外を眺めると雨が降り始めた。そして、遅れて地を揺らすような雷鳴が聞こえて来る。建物自体が揺れているかのような振動を感じた。

「近くに落ちたのかな?」

 コロはキャットタワーの上を向いて尋ねたが、ナナさんの姿が見えない。不思議に思っていると、いつの間にかナナさんが隣にいる事に気づいた。

 コロは隣のナナさんとキャットタワーの上を交互に見る。

「ナナさん…。雷怖いの?」

「怖くはないわよ。苦手なだけよ」

 つんとした顔をしているが、尻尾が不快そうに揺れている。

「今日は荒れるのかな?嫌だね」

 コロはそう言って窓の外を見つめる。雨足が激しくなっていた。

 また、閃光が襲って来て目が眩む。数秒経って雷鳴が響いて来る。今度のは落ちずに空の上で鳴いていたようだった。龍が唸っているように感じて、コロの尻尾は体の下に隠れてしまう。

 コロは窓の側から離れてソファーに座る。

 ナナさんもコロに続いてソファーの上へ。

 ガタガタと揺れる窓を尻目に2匹はソファーで丸くなる。

 珍しくナナさんはコロとソファーの間に入り込んでくる。

「ナナさん、苦しくない?」

「大丈夫よ。それより、あんた少し汚れてるんじゃない?ちゃんと綺麗にしとかないと」

 ナナさんはそう言うとコロの毛繕いを始める。

 窓の外では、雷と雨が勢いを増した様だった。

 コロは窓の外を見つめるしか無かった。




 ご主人がおやつを食べに行く途中に2匹の姿を見つける。

 コロとナナさんが仲良く並んで寝ている姿を見て、それを写真に納めた。

 コーヒーを飲みながら窓の外を見れば春の嵐。でも、室内は穏やかな時間が流れて行く。モゾモゾと寝返りを打つコロやナナさんを見てご主人は幸せを満喫した。

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