第38話 晩酌のお供
炬燵に入ったご主人の前には、お酒とお刺身が置かれている。さらに、クラシック音楽を流しながら、優雅な時間を演出する。
今日のご主人はご機嫌だ。勿論、コロとナナさんもご機嫌だ。お刺身を分けて貰える可能性があるのだから。
「あ〜、よだれが止まらない」
コロの口は半開き状態で、舌が収まる事なく垂れている。
「ちょっと、床が汚れるでしょ」
ナナさんが注意する。が、ナナさんも口が閉まってない。流石に、コロのように涎を垂らす事は無かったが。
ご主人は二匹の状態を知ってか知らずか、一口酒を飲むと、お刺身を一切れ食べる。
「う〜ん」
そう言って舌鼓を打つと、またお酒を飲む。そして、気分が上がってきて歌い出す。気分は一人オーケストラ。ご主人は箸を指揮棒のように振る。
コロとナナさんは無意識に、ご主人の指揮を顔が追いかける。ご主人は二匹を見ると、更に楽しくなって立ち上がり、体全体を使って表現する。
丁度、曲の切れ目で座ると、コロとナナさんに一切れずつ差し出した。
「おいしい?」
「おいしいです」
コロは元気に答え、ナナさんは黙々と食べる。ブリの甘味が口の中に広がる。コロも曲に合わせて表現する。それが、ご主人にはウケた。アハアハ笑い出したのだ。
「お刺身最高」
コロの気分は、天を飛ぶ勢いだった。
「次はマグロですよ」
ご主人はコロとナナさんに差し出すと、自分も食べる。
「「「う〜」」」
同時に舌鼓を打った。
お酒をまた一口と飲むご主人は、そろそろ出来上がってきていた。
「は〜、最高。最高ですよ、コロさん」
そう言うと、お酒臭い息をしながら抱きついて来る。
「ご主人。分かったから、少し離して」
苦しげなコロに、ご主人は気づかない。
「は〜、コロからいい匂いがする」
ご主人はコロの身体に顔を埋めると、深く息を吸う。何度か深呼吸して、今度はナナさんを標的にする。
さっと、抱き上げられたナナさんも、嫌そうな表情をする。
「臭い」
ご主人はナナさんの不満な顔に目もくれず、顔を埋める。コロの時以上に何度も息を吸う。
ナナさんの表情はブスッと不貞腐れている。匂いが移るのが嫌なのだ。
「もう、充分でしょ」
ナナさんはご主人の頭を前足で押す。
ご主人は満足すると顔を離す。現れた顔は満面の笑みだった。
「堪能させてくれた二人には、もう一切れずつあげます」
そう言って、マグロを差し出してくれた。
「やっぱり、お酒のお供にはコロとナナさんが最高。これからも、付き合ってね」
「「もちろん」」
晩酌は、一人と二匹が満足するまで、楽しく続いた。
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