第36話 大型犬

「コロ、ナナさん。散歩行くよ」

 ご主人に呼ばれ、ウキウキなコロとナナさん。今日はどちらも赤いパーカーを着ている。今日はお揃いの衣装だ。

「ナナさんもコロも似合ってるよ。可愛い」

 その言葉にコロは嬉しさ爆発して、家を飛び出しそうになる。

「コロ、落ち着きなさいよ。怪我するわよ」

「コロ、準備しないと外には行けないよ」

 ご主人のナナさんに嗜められて、コロはお座りをする。だけど、気持ちは今にも走り出しそうだった。

「さあ、準備オッケー。行くよー」

 ご主人がドアを開けると一目散に走り出す。が、リードによって動きが制限される。

「コロ、嬉しいのは分かるけど、怪我するから、もうちょっと、ゆっくり行こう」

 ご主人の言葉を受けて、少しだけ力が弱まる。それでも、コロは辺りの匂いを嗅ぎながら、先を急ぐ。

 ナナさんは、コロを気にする事なく、いつものペースで歩いている。そして、立ち止まっては、ゆっくりと匂いを嗅ぐ。最近は暖かくなって、鳥の声が賑やかになるに連れ、匂いも賑やかになった。咲き始めた花の香りに、動き出した動物達の匂い。

 公園に着くと、コロは大人しくなる。

「どうしたの?コロ。さっきまで、あんなに急いでいたのに」

 ナナさんからの質問に、コロはあっけらかんと言い放つ。

「みんなにナナさんとお揃いの、洋服を見て欲しくてさ」

 ニコニコ笑顔のコロに、ナナさんは何も言えなかった。

「コロは今日変ね。あんなに急いでたのに、公園では大人しくするなんて。どうしたの?」

 ご主人が人差し指でコロの口元を突く。

「僕はお利口さんだからね」

 そう言って、コロは公園内を見回す。

「誰を探してるの?」

「ナナさんのファン。見せつけてやるんだー。そして、今日こそ撫でてもらう」

 丁度、その時公園にいつもの女性が現れた。女性はナナさんを見つけると、迷いなく近づいて来る。

「こんにちは。今日も可愛いですね」

「ありがとう。今日はペアルックなの」

 ご主人の紹介で、コロはちゃんのお座りして、尻尾を振る。

「そう言えば、大型犬は苦手だったのよね」

 ご主人の言葉に、コロは驚く。そして、ナナさんに顔を向けた。ナナさんは知らなかったと首を横に振った。

「そうですね。見てる分には、大丈夫なんです。むしろ、コロちゃんは見てるのが好きなんですけど…。撫でるのは、結構怖いですね」

 コロもナナさんも知らなかった事実。だから、ナナさんだけだったのかと、コロは少し納得した。

「撫でてみる?コロは噛まないから」

 少しの間、悩んでいたが女性は撫でる事にした。

「あっ、その前に写真撮ってもいいですか?」

「どうぞ、どうぞ」

 コロとナナさんは横に並んで、お座りする。

 女性は二匹を画角に収めるとシャッターを切った。撮った写真を満足そうに見つめる。そして、一息吐くと恐る恐るコロに手を伸ばして来る。

 女性が大人しく待っているコロにさわれないので、ご主人が声をかける。

「あれだったら、後ろからやってみる?」

「そうしてみます」

 コロは前だけを向いて、女性を見ないように努めた。すると、恐々とした手つきだったが、背中を撫でてくれる感触があった。一瞬、立ち上がりそうになったが、ぐっと我慢する。

 女性もコロを撫でられてとても嬉しそうだった。

「良かったわね」

 ナナさんの言葉に、元気よく返事をする。



 その日、コロは眠るまでこの事を自慢げに話した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る