第35話 梅の花

 朝起きて、見回りをしていたナナさんは、窓の外に梅の花が咲いている事に気付いた。二羽のメジロが仲良く寄り添いながら、梅の木を飛び回っている。ナナさんの尻尾は無意識の内に、ゆっくりと揺れ始めた。

「おはよう。ナナさん」

「おはよう」

 元気なコロの挨拶に、メジロは驚いたのか飛び去って行った。

 なんだか、ナナさんの尻尾は不機嫌に揺れている様だ。

 外を見ているナナさんの横に座り、コロも庭を眺める。

「あっ、梅の木に花咲いてる」

 コロの尻尾が左右に動き出す。

 起きてきたご主人は、二匹の何とも言えない後ろ姿に、笑みが溢れる。

「どうしたの?二人とも?」

 コロとナナさんを撫でながら、外を見る。梅の木に小さな花が付いていた。

「梅の花が咲いたね。これから、暖かくなってくよ」

 ご主人の言葉と共にメジロ達が戻ってきた。

「いいね〜。やっぱり梅の花にはメジロが居ないと、風情がないよね〜」

 ご満悦なご主人は窓から離れると、キッチンに向かった。

「暖かくなったら、もっと遊ぼうね」

 コロがナナさんへ言う。

「遊んであげるけど、のんびりもしたいわ」

「もちろんだよ」

 コロは嬉しくて笑う。

 キッチンから戻ってきたご主人の手には、熱いお茶が入った急須があった。湯呑みにお茶を入れると、コロ達の近くに座ってゆっくりと飲む。お茶を啜る音を聞きながら、コロとナナさんは外を見ていた。

「二人ともお外に行く?」

 ご主人の質問に二匹は身体で答える。素早く立ち上がるって、ご主人を見つめる。

 ご主人はそんな二匹を見て笑うと、窓を開けた。

 コロとナナさんは開けられた窓から飛び出すと、コロは走り回り、ナナさんは梅の木に登り梅の花を眺めた。

 ナナさんは、まだ小さな梅の花を大切そうに見つめていた。

「梅の香りだ」

 コロは鼻を鳴らして、梅の香りを逃さないように吸い込む。

「いい香りね」

 ナナさんもゆっくりと呼吸しながら、堪能している。

 ご主人もほのかに漂って来る香りに、目を細める。

 梅が薫る中、一人と二匹は新しい季節に想いを馳せた。

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