第33話 小雨の楽しみ方

「今日は雨だね」

 外を眺めながらコロが言う。窓の外は小雨が降っていた。

「この頃、乾燥気味だったから助かるわ」

 ナナさんは美しい毛並みを整えながら言う。

「久しぶりにお風呂に入りたいね」

「そうね。ご主人、今日お風呂にいれてくれないかしら」

 ナナさんの言葉にコロはいい事を思いついたと声を上げる。

「それだったら、ちょっと汚れればお風呂に入れると思うよ。ちょうど小雨だし、庭で遊べばすぐ汚れるよ」

 ニコニコと話すコロにナナさんは呆れる。

「あのね。お風呂は気持ちいいけど、雨に濡れるのはそんなに好きじゃないの」

 つんと澄ましたナナさんは外を眺める。

「雨は優雅に眺めるものよ」

「えー。雨に濡れるのも気持ちいいよ」

「コロは身体が動かせれば、雨でも雪でも台風でも大差ないでしょ」

 ナナさんが笑って言う。コロは素直に「うん」と答えた。

「外に行きたいなー。ご主人、玄関開けてくれるかな?」

「さあね。頼んでみたら」

 ナナさんに言われコロは部屋を出ていく。そして、部屋の外からコロの懇願する声が聞こえて来た。

「ご主人、お外に出たいから玄関開けて」

「どうしたの?コロ。何?何かあるの?」

 コロに誘導されて、ご主人は玄関に向かって行く足音がする。

「玄関開けて」

「え?お外に行くの?雨降ってるよ。お外に行きたいの?」

「行く。行くよ」

「分かった。開けてあげるから」

 玄関が開く音がして、コロの嬉しそうな声が外に消えて行った。

 玄関からご主人がやって来て、外を見ていたナナさんに声をかける。

「ナナさん、コロが戻って来そうになったら教えてね」

 ご主人は柔らかいナナさんの毛を撫でる。

「わかったわ」

 ナナさんの返事を聞くとご主人は戻って行った。

 窓の外ではコロが泥を蹴り上げて走り回っている。凄くいい笑顔をしている。ナナさんはそんな光景をぼんやりと眺めていた。


 しばらくすると、窓を叩く音がする。ナナさんは目を開けた。いつの間にかウトウトとしていたらしい。

 窓の外には、ずぶ濡れのコロがいた。コロが何度も鼻で窓を叩く度に、顔が少し不細工になる。

「ナナさん。玄関開ける様にご主人に言って」

「はいはい」

 欠伸と伸びをしてナナさんはご主人の元へと向かう。コロは優雅に歩くナナさんの後ろ姿を見送ると玄関に向かった。

 少しして玄関が開くとコロは急いで中に入る。

「楽しかった?」

 ご主人の質問にコロは満面の笑みで答えた。

「じゃあ、お風呂に入ろうか。ナナさんも一緒に入る?」

「もちろん」

 ナナさんの返事にご主人は二匹をお風呂場に連れていく。そして、暖かなお風呂を二匹は満喫するのだった。

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