第31話 ネズミのチュー太

 陽の当たる庭にナナさんとコロとヤタがいる。

「そうだ。僕、ヤタにしたい話があったんだ」

「おっ、なんだ?変わった話か?」

 ヤタが興味を持ち、コロの近くに降りてくる。

「ネズミのチュー太のお話だよ」

「聞いた事無いな」

 ヤタの言葉にコロはニヤリと笑う。

「それじゃあ、話すね」




『ある所にネズミのチュー太が居ました。彼は好奇心旺盛でいつでもどこへでも出かけて行きます。雨の日に川に行って川を泳いだり、雪が降れば何時間も外で遊んでいたりと行動的な性格だった。

ある時、チュー太はモグラの穴を見つけ、飛び込んでみた。中はひんやりとして、暗い。それでも、チュー太は突き進んだ。穴の大きさはネズミにちょうど良く。すいすいと進んでいける。途中で分かれ道が何度もあったが、テキトーに進むと外に出た。

チュー太は少しがっかりした。モグラのねぐらにでも行ければと考えていたのだ。しかし、ここは悪くは無いと思った。きれいな庭に一軒家。遊ぶ所は多そうだ。

チュー太は近くの木に登る。風を受けてチュー太は最高の気分だった。その時、気付いて無かったんだ。家の中から覗く二つの眼に。

少しして、一匹の犬が庭に出て来て走り回りだした。チュー太は木の上から警戒して見下す。走り回っていた犬はチュー太が来た穴を見つけると匂いを嗅ぎ出す。

「なんか、いつもと違う匂いがする」

犬が言うと、チュー太は冷や汗をかく。見つかるなと心で呟き、身を小さくする。でも、願いは虚しく叶わなかった。後ろから現れた猫に成す術なく捕まえられた。

「た、助けてくれー」

猫の足で潰されているチュー太は助けを求める。だけど、虚しく猫の腹の中へと飲み込まれてしまった。

それ以降チュー太を見た者はいない。』




 しーんと静まり返る中、ヤタは乾いた笑いを浮かべる。

「は、はは。その犬と猫がコロ坊と姐さんなんて言わないよな?」

 二匹は悪い顔をしてヤタを見る。

「どうかしらね。もしかしたら、まだ胃の中にいるかもね」

「またまた。姐さんまで冗談に付き合うなんて、どんな風の吹き回しですか?」

 ナナさんはふふふと笑みを浮かべるだけで応えない。

 不意に微かな声が聞こえた。何を言ってるか分からないが、助けを求めているような気がする。ヤタは耳をすませた。

「たすけてー」

 今度は言葉まで分かった。しかも、ナナさんの方から聞こえてきた様な…。

「姐さん。ネズミを食べちゃったんですか?」

「どうして?」

「姐さんの方から声が聞こえますよ。助けてーって。聞こえませんか?」

「ヤタは何言ってるの?何も聞こえないよ。ねえ、ナナさん」

 ナナさんは頷く。

 ヤタは怖くなって飛び立った。

「急用を思い出しました。また今度。じゃあ」

 背中越しに挨拶して飛び去って行った。

「ちょっと、やり過ぎたかな?」

「みたいですね」

 コロの疑問にナナさんの影から現れたチュー太が応える。

「挨拶しときたかったんですが…」

「また、今度でいいわよ。旅に出てなきゃ。一週間位で来るよ。しかし、ヤタは意外と信じ込みやすいタイプね」

「びっくりだね」

 コロは飛び去ったヤタを見送った。

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