第28話 名前の由来
庭でのんびりと日向ぼっこしているコロとナナさんの所に、ヤタがやって来た。
「おはようございます。姐さん。コロ坊」
今日の挨拶はいつもより小さい。
「おはよう」
のんびりと欠伸しながらナナさんが応える。コロはまだいびきを掻いて寝ている。
「どうやら、コロ坊はお疲れのようで」
「ただ、気持ちよくて寝こけてるだけよ。コロ。ヤタが来たわよ」
コロは言葉にならない声でムニャムニャと呟く。
「全く。あんまり寝ると夜寝れなくなるくせに」
ナナさんはコロの頭に猫パンチをお見舞いする。
「ふげっ」
変な声を出してコロは目覚めた。ヤタはそんなコロを見て笑う。
「おはよう、コロ坊」
「えっ、ヤタだ。いつ来たの?」
コロははしゃいで踊り出す。
「ついさっきだよ。それよりコロ坊はどんな夢を見てたんだ?」
「えっとね、えっとね。この前話してくれた梟さんに会う夢だった」
「そうかい。そう言えば、梟はコロ坊のところに来たかい?」
「まだ来ないんだ。来たらお話したいのに…。あっ、そうだ。梟さんの名前は何て言うの?」
「まあ、あの梟は気の長いタイプだと思うから、まだ来ないか。名前か?そう言えば聞いてないな」
「えー!じゃあ、梟さん見つけても、その梟さんか分かんないや」
コロはガックリと肩を落とす。
「もしかしたら、無いのかもよ」
ナナさんが言う。
「えー、名前が無かったら生活し難いよ」
「いや、そうかも知れ無い。森の中で家族とだけで暮らしていると名前なんていらんのかも」
ヤタが凄いことに気付いたと目を輝かせる。
「それか、ヤタが聞いてないか、忘れたか」
ナナさんの声が横から飛んできて、ヤタは心許なげな顔をする。
「その可能性もありますな」
小さな声で同意した。
「でも、困ったなー。名前が分からないや」
「次に会った時に聞けばいいじゃない」
ナナさんが呆れて言う。
「うん、そうする。でも、名前って不思議だね。僕、皆んなが名前を持ってるって思ってた」
「そうね。野良猫の中には名前が無いのも結構いるわよ」
「カラスも基本群れだから、あんまり名前を付けないな。仲間かそうじゃ無いかが大事で、他の事はあんまり気にしないから。旅に出るようになって、必要性を感じて自分で名前付けたんだよ」
「自分で名前つけたの?凄いね」
コロの言葉に満更でも無い顔で胸を張る。
「でも、ヤタってどうしてヤタなの?理由は?」
「そ、それは…」
ヤタは口篭ってしまう。
「何恥ずかしがってんのよ。自分でつけた名前でしょ。堂々としなさい」
ニヤリと笑いながらナナさんは言う。
「あー、なんだ。ちょっと有名な方から名前をいただいたんだ。八咫烏って聞いた事ないか?」
「知らない。どんなカラスなの?」
「日本神話に出てくる神様だ」
「神様なんてカッコいいじゃん」
コロの尊敬の眼差しでヤタは少しだけ気が大きくなる。
「そうかい。コロも良い名前だな。分かり易いしさ」
「うん。僕もそう思う。ご主人はいいセンスだよ」
当然とコロは頷いた。
一羽と二匹の間で軽やかな笑いが生まれた。
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