第26話 着せ替えナナさん

「ナナさん、今日も綺麗だね」

 ご主人は寝ているナナさんを写真に収めて満足げにしている。

「そうだ。ナナさんに着て欲しいお洋服を買ったんだった」

 鼻歌を歌いながらご主人は部屋を出ていく。珍しくナナさんはまだ起きない。勿論コロは爆睡中だ。

 ご主人はダンボール一箱抱えて戻ってくる。中にはナナさんとコロの新しい服が入っていた。ご主人は1番上にある服を取り出すと、広げてみる。真紅のゴシックロリータ風の洋服だった。

「ナナさんに似合いそう。ナナさん、ごめんねー。起きてー」

 ご主人は寝ているナナさんを抱き上げる。

「ふぇ?なに?どうしたの?」

 寝ぼけ目のナナさんはよく分からないまま、ご主人の腕の中にいる。ナナさんはまたうつらうつらと眠り始める。

「お着替えしましょうね♪」

 ご主人はナナさんを下ろすと、ゴスロリの服を着せる。ナナさんは眠りを邪魔されたからか、目が不満げに鋭くなっている。

「やっぱり似合う。可愛い」

 透かさず写真を撮る。色んな角度から写真を撮るので、ご主人は右へ左へ大忙し。

「ナナさーん、笑ってー」

 ナナさんの不機嫌に気づいたのか、ご主人はナナさんを撫でながら、カメラのレンズを向ける。ナナさんはプイッと横を向く。ご主人はナナさんの顔を追いかけるが、正面に来るとまたナナさんはそっぽを向く。何度かこのやり取りを繰り返す。

「ごめんね、ナナさん。協力してくれたら、おやつあげるから、ね?」

 ナナさんが何か言う前に、おやつという言葉に反応したのはコロだった。一瞬で起き上がると、ご主人とナナさんを見つめる。

「僕もおやつ欲しいな」

 小さな声でコロは言う。

「勿論、コロにもあげるからね。待っててね」

 ご主人はコロを見て笑う。

 ナナさんは不承不承ながら、ご主人を手伝う事にした。

「良いねー、ナナさん。可愛いよー」

 ご主人は写真を撮るのが楽しくなってきた。

「よし、次はこの白いタキシードを着ようね」

 今度は身体にヒィットするタイプでさっきよりも不快感が大きいが、ナナさんは澄ました顔をしている。

「ナナさん、最高」

 興奮しているご主人を前にコロはただ見守るしかない。

「そうだ。最後にマリリンモンロー風の白いドレスを着ましょう」

 ナナさんはされるがまま、諦めた顔をしている。今度はゆったりとした服なので、ナナさんも安心した。その気持ちが表情にでたのか、ご主人の写真を撮るのスピードが速くなる。

「う〜ん、良い顔してるよ。ナナさんはやっぱり世界一可愛いね」

 欠伸しているナナさんを激写して喜んでいる。

「さて、お約束通り。ナナさんにはおやつをあげましょう」

「もう、終わりなのね?」

 ナナさんはふぅと溜め息を吐く。

「しかし、コロは今からお着替えです。今度はコロも撮るぞ〜」

 離れた所から見ていたコロが驚く。

「僕もやるの?」

「諦めなさい。今のご主人は何が何でもやるわよ」

 ナナさんは嬉しそうにニヤリと笑った。白いドレスを着ているけど、笑顔は黒かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る