第22話 穴掘り

 コロは一心不乱に庭の一角を掘っていた。息は荒いが、それでも掘るのをやめない。

「コロ、何してるの?庭を穴だらけにしたらご主人に怒られるわよ」

 ナナさんの注意を聞いても、まだ掘り続ける。

「いた。捕まえた」

 そう言って、コロが口から離したのはネズミより一回り大きいモグラだった。モグラはひっくり返って動かない。

「あんた、殺したの?」

 ナナさんがコロに尋ねつつ、モグラをつつく。その瞬間、モグラは跳ね起きた。ただモグラは自分の状況がよく理解できてないのか、鼻をひくつかせながら顔をあちらこちらに向けている。

「やあ、モグラさん」

 コロが小さく声をかけたけど、モグラは驚き、またひっくり返った。

「ああ、モグラさん大丈夫?」

 コロはモグラを前におどおどと焦り出す。

「コロ、落ち着きない。モグラは目が見えない代わりに、鼻と耳がいいのよ。だから、少し離れてから声をかけてあげましょ」

 コロとナナさんは1メートル程離れた所から、モグラの様子を窺う。

「モグラさん。死んでないよね?」

「大丈夫でしょ。流石にあれで死ぬ事はないわよ」

 ナナさんの言葉に少し安心したコロがモグラを見ると、微かに手が動いた。それから、少ししてモグラは体を起こした。

「どうしよう?何て声掛ければ良いかな?」

 コロは声を潜めてナナさんに問いかける。

「普段通りに『やあ』でも『初めまして』でも良いじゃない。と、言うか何でコソコソ話すのよ」

 ナナさんもコロに合わせて小さな声になる。

「いや、だってモグラさんは耳がいいんでしょ。また、驚かせないようにと思って」

 そんな話しをしていると、モグラが声をかけてきた。

「どうも、初めまして」

 顔を上げ、コロ達の方に鼻を向けている。

「やあ、さっきはごめんね」

 コロが調子外れな声で言う。

「それと捕まえた事も謝っときなさい」

「そうだった。ごめんね。モグラさん」

 ナナさんに促されて、謝るコロ。

「驚きました。心臓が止まるかと思うほど。驚天動地とはこの事かと…。それで、私はどうして捕まったのてしょう?まさか食べる為ですか?」

 モグラの顔色は分からないが、声は恐怖で震え出す。

「違うよ。庭で遊んでたら変わった匂いがして、気になって掘ったら君がいたんだ。僕達は食べたりしないよ」

「どっちも落ち着きない」

 ナナさんの一声で場の空気が柔らかくなる。

「あなた、此処に迷い込んだんでしょ?何処に行くつもりだったの?」

「それが、この近くの公園に住んで居るんですが、野良猫に追いかけ回されるので、何処か良い場所は無いかと探し回ってたんです」

「そうなんだ。何処か良い場所は無いかな?」

「それなら、河川敷なんてどうかしら?」

 ナナさんの意見に興味あり気にモグラは立ち上がった。

「一度行ってみます。ダメだったら、相談しに戻って来てもいいですか?」

「いいよ。時々は遊びに来てよ。そうだ、僕はコロ」

「私はナナよ。あなたは?」

「僕はモグリです」

「じゃあ、方向はあっちの方だから気をつけてね」

 コロの匂いを嗅いで方向を確認するとモグリは穴の中に降りていく。

「では、また」

 モグリが穴の奥へと消えていくのを、コロとナナさんは見送った。そして、穴をどうするか考え始めた時、背後からご主人の大声が飛んできた。

「あ〜、何この穴」

 コロが振り向くと腰に手を当てたご主人がコロを見下ろしている。

「コロがやったんでしょ。ダメでしょ。どうしてこんな事するの?」

 矢継ぎ早に飛んでくる叱責にコロは小さくなる。ナナさんに助けを求めようとするが、ナナさんの姿は何処にも無かった。ナナさんはいつの間に姿を消していた。

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