第21話 レオと世間話

 朝、コロとナナさんが庭に出ていると、塀の上をレオが通り掛かった。

「お久しぶりです」

「やぁ、レオ。元気だった?」

「実は風邪になってしまって。少し前まで病院通いをしてたんです」

 レオはばつの悪そうな顔をしている。

「それはご愁傷様。でも、もう治ったんでしょ?」

 ナナさんが木の上から言う。

「ええ、お陰様で。お二人は体調崩されたりして無いですか?」

「大丈夫。僕達、ご飯いっぱい食べて、いっぱい運動してるからね。身体が丈夫なんだ」

 元気いっぱいに答えるコロをレオは笑って見る。

「自分も頑丈だと思ってたんですが。思いの外風邪になっちゃって…。しかも、辛いのなんのって」

「普段、病気にならない人が病気になると酷くなるってやつだね。猫も同じなのかもね」

 コロの言葉にレオは何となく納得した。

「治ったばっかりなら、あんまり外に出ない方がいいんじゃない?」

「そうなんですが、ずっと家の中ってのはストレス感じちゃって」

 ナナさんの質問に苦笑混じりに答える。

「レオのお家にはおもちゃは無いの?」

「有りますよ。ただ、おもちゃって飽きるじゃないですか。それに比べて外は色んな物があったり、色んな動物がいるから楽しいです。それに外に出れば、お二人とこうして話す事も出来ますし」

 レオの答えにコロは分かり易いくらいに顔がかがやく。

「レオのお散歩コースは何処を通ってるの?」

「気分によりますけど、大体川の方に行きます。大きな道路は流石に通れないので、河川敷を使って北上したりしてます。今日は南下していったら、美味しそうな匂いのパン屋があって、そこの人と遊んであげてました」

「パン屋さんか。パン屋さんに限らずお店ってどうしてあんなに美味しそうな匂いがするのかな?」

 コロは涎を垂らす。

「コロ、涎垂れてる」

 ナナさんの注意で口を拭う。

「あっ、そうだ。公園には行かないの?」

「公園は一度行ったんですけど、そこの野良猫に追いかけまわされて。仲良くなれそうにもないし、あいつらに近付きたくないんで、行って無いです」

 レオは毛繕いを始めて、気持ちを落ち着ける。

「どうして、そんな事するのかな?僕達がいく時は何もして来ないのに?」

 木の上のナナさんに質問するが、ナナさんは気のない返事をする。

「さあね。気になるなら、直接本人に聞いたら?」

「うん、今度聞いてみる。」

 コロはそう言うと毛繕いをしているレオを見て思い付いた。

「そうだ。今度一緒に散歩に行こうよ」

 コロの提案にレオとナナさんはギョッとした表情になる。

「いや、あの…」

「あんたね、猫には自分のペースや距離感、そしてタイミングってのが有るの。あんたの気持ちを押し付けないの」

 落ち着いた声でナナさんは諭す。

「いや、お気持ちは嬉しいんですけど、自分は今の距離感が好きなので」

 レオは笑って言う。

「そうか、ごめんね」

「気にしないでください。では、また」

 レオはゆっくりと塀の端まで行くと、姿を消した。

「嫌われちゃったかな?」

 不安な表情のコロにナナさんは言う。

「大丈夫よ。猫の距離感は近づく時も離れる時もゆっくりだから。嫌いな時は最初から最後まで嫌いなのよ」

 その後、ナナさんは落ち込み気味のコロを慰めてくれた。昼頃にはいつも通り元気いっぱいなコロに戻った。

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