第18話 梟は覗く

「ヤタ、前が見えないよ。退いて」

 ヤタがコロの頭にしがみついたままだったので、コロは視界を塞がれていた。

「おう、すまねえな。ただよ。腰が抜けて動けねえんだ」

 ヤタは申し訳なさそうに言う。

「コロ、地面に下ろしてあげなさい」

 ナナさんの声にコロは地面に伏せる。ヤタは滑る様に降りた。

「はあ、今日はコロ坊にお話しに来たのに、これじゃあ、しまらねーなぁ」

 うつ伏せになったヤタが嘆く。

「お話なら、その格好でも出来るよ。早く聞きたいな」

「そうかい。そうだな。今日の話は梟に会った時の話だ」

「フクロウって首がクルンって回る鳥でしょ?」

「そうだぜ。よく知ってるな、コロ坊。その梟のお話だ」

 話しているうちに体調が良くなったのか、ヤタは上半身を起こした。





場所は忘れたが、森の中を飛んでいた時だった。俺は疲れて枝に留まり、いつもの様に大きな声を出してた。

普通なら、そこに住むカラスだったり、イノシシや狸を見かけるが全然ダメで、諦めて飛び立とうとしていたら、近くから声がしたんだ。見ると俺が止まった木にウロがあってその中に梟がいたんだ。

「やあ、うるさいカラスや。何を騒いでいる?」

そう言いながら眠そうな顔を出す。

「いや、すいません。こんなに近くに巣があるとは思わなくて。実は旅をしていて、旅先で知り合った動物から、色んな話を聞いているんです」

「そうか。誰か居ないかと騒いでおったのか。しかし、この辺りは私等フクロウやリスぐらいしか居ないな」

相手は困ったと言う顔をしていたが、俺としては嬉しい限りよ。梟の話なんて初めて聞くからな。

「それでしたら、このまま貴方とお話させてください」

「私でよいのかい?」

「いいえ、貴方がいいんです」

「そうか。なら、話をしよう」

「ありがとうございます。お聞きしたいのは、梟の逸話です。梟と言えば、夜行性で夜目が効き、聴力も素晴らしい。そう言う進化をした切っ掛けみたいな話は無いですか」

「そんな話か。だったら語ってみるかの」

そう言って梟が語り出した。


昔、昔のことだ。ある時、蛇が梟に言った。

「俺達は知恵を司る生き物だが、どっちが頭が良いのか勝負しよう」

しかし、梟は勝負をしなかった。興味が無かったからだ。

それでも、蛇は何度も勝負を持ち掛ける。それが堪らなくなって、梟は昼間は巣の中で過ごす様になった。

そして、蛇が眠る夜中に起きて活動するようになった。すると、夜目が効くようになり、音がよく聞こえるようになった。そして、梟は気づかれない様に静かに飛ぶようにもなった。


と言う話。

それともう一つ。


梟は知的好奇心が旺盛で、夜な夜な色んな生き物の生活をこっそり覗いていたそうだ。

取り分け、人間の知恵に興味があり覗いていたそうだ。

だから、知恵を司り、夜目が効き、耳も良くなったんだとか。

               』


「どちらにしても、共通するのは梟は知的好奇心が旺盛と言う事です。勝負事より自分の好奇心を大切にする。」

「面白いな。一つ目の話は逸話の典型ですね。二つ目はどちらかというと世俗的なお話だ。梟は覗き魔ですか」

俺は笑っちまった。

梟もホーホー楽しそうに笑ってたな。




「って、事があったのよ。コロ坊はどっちの話が好みだい?」

 地面にしゃんと立ったヤタがコロに尋ねる。

「僕は覗き魔な梟さんの話がいいな。何だか親近感が湧くもん」

「やっぱり、コロ坊ならそう言うと思ったぜ。だから、梟にも言ったのよ。こう言う話が好きな犬がいるって、そしたら興味持ったらしくてな。もしかしたら、夜中に梟が来るかもしれんぜ」

「本当に?」

「来たとしても、覗き見されるだけかも知れんけどな」

 コロは「そっかー」と残念そうに呟いた。

「そいじゃ、そろそろ帰りますわ。姐さんまた。コロ坊もまたな」

 そう言うとヤタは屋根に飛び上がる。

「気を付けてね」

 ナナさんの声を背に受けて帰って行った。

 その日の夜、コロはいつも以上に外を気にした。何度も何度も窓から外を眺めては梟の姿を探した。

 遠くかすかに梟の鳴き声が聞こえた気がした。

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