第17話 大声カラス

 朝からカラスが外で鳴いている。

「おはよう。皆さんおはよう。朝からお疲れ様です。ゴミ出し大変ですね。お疲れ様です。おっ、朝の見回りですかい、車に気をつけて」

などと、道行く生き物に声をかけている。

「朝から元気だね」

「うるさいだけよ」

 家の中から覗くコロとナナさんは呆れている。コロ達の目線の先、家から一番近くの電柱の上にはカラスのヤタがいる。

 二匹が自分を見ている事に気づいたヤタは庭の木に降りてきた。

「おはようございます。姐さん、コロ坊」

 ガラス越しでも聞こえてくるヤタの声にナナさんは渋い顔をしている。

「どうしてナナさんはヤタが大声出すと嫌そうなの?」

 コロが尋ねる。

「カラスが大声出してたら、近所にカラスの溜まり場だって思われるの。カラスは人間に嫌われてるから、ご主人の立場が悪くなるのよ」

「ヤタはゴミとか漁ったりしないけど、嫌われるんだね」

 二匹が窓に釘付けになってる後ろ姿を見たご主人が玄関を開けてくれる。

 コロは早速ヤタの元へとダッシュ。

「ヤーター。おはよう」

「おう。元気だったか?」

「元気だよ。それより、なんでヤタはそんなにうるさいの?」

 コロは火の玉ストレートな言葉を投げつける。

「もしかして、姐さんが怒ってたかい。そうだな。癖になってんだなあ。俺があちこち旅をしてるのは知ってるだろ?色んな所行くけど、そこで1番気をつけなきゃ行けない事ってな〜んだ」

 ヤタはチッチッチッチッと時計の針のように時間を刻む。

「えーと、ご飯」

「ブー。勿論ご飯も大事だけど1番はそこにいる動物に自分が敵じゃ無いと知らせる事。旅の仕方にもよるが、俺みたいに行った先で動物と話すためには、大事なことなんだ」

 ヤタはしみじみと言う。

「俺はここにいますよー、敵じゃ無いですよーって大声を出して教えるのさ」

「分かった。狩りの時にゆっくり静かに近寄るから、その逆の事をしてるんだ」

「その通り。さすがコロ坊。よく分かってるじゃないか」

 ヤタに褒められてコロはニコニコ笑う。

「大声を出して、向こうからやって来て貰うのを待って、後は話して仲良くなるだけ」

 自信満々に胸をつきだす。そこにゆっくりと忍び寄ったナナさんが声をかける。

「だからってご主人に迷惑かけないでよね」

 真後ろから声がして、驚いたヤタはコロの頭の上に木から落ちた。

「脅かさねえで下さいよ」

「前が見えない」

 ヤタは腰を抜かしコロの頭にしがみつく。

「私等に喰われたくないなら、気をつけな」

「いや、私等って。コロ坊は俺を食べたりしないよな?」

「こう見えてコロは狩りの練習してるのよ?あんた丁度良い練習台になりそうね」

「コ、コロ坊…」

 ヤタは助けを求めるが、答えは非情だった。

「ごめんね、ヤタ。僕はナナさんに逆らえないや」

 ヤタはナナさんに木の上から見下ろされ、自分が不利な場所にいる事に気付く。

「分かりました。次からは気を付けます。絶対に大きな声は出しませんから」

 ヤタの言葉にナナさんは鼻を鳴らす。

 コロが小さく呟いた。

「よかったね、ヤタ」

 それで、自分が許されたのだと、胸を撫で下ろした。すると、木の上からナナさんの笑い声がする。

「冗談よ。ヤタは揶揄い甲斐があるわね」

 なんてナナさんは言うが、あれは本気だったとヤタは思う。勿論言わないがコロも。ヤタは乾いた笑いしか出なかった。

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