第16話 狩り上手
散歩の途中。コロは公園で鳩を追いかけ回していた。
「待てー」
忙しなく走り回るコロに捕まる様な間抜けな鳩がいるはずも無く。コロが通る所だけ波が割れる様に、鳩が逃げていく。
「コロ、周りに迷惑でしょ」
もふもふと公園で出会ったお姉さんに撫でられながら、ナナさんが声を掛けてくる。
息を切らしながらコロは諦めて戻ってくる。
「ナナさんみたいにどうして捕まえられないんだろ?」
不貞腐れた顔でコロは呟く。ナナさんはそんなコロを横目に気持ち良さそうに伸びをする。
「焦らずにじっくりと観察しなさい。あんたは直ぐに飛びつくから逃げられるのよ」
コロはナナさんのアドバイス通り、じっと鳩を観察する。鳩はキョロキョロと辺りを伺いながら、歩いている。そして近づく者がいると即座に飛んで逃げている。
「群れを狩るのは難しいのよ。何羽かは周りを警戒するからね。だから身を隠して、群れから離れたのを狙うわけ。」
ナナさんの言葉を聞きながら、鳩の群れ全体を眺める。何羽かは絶対首を上げているのが分かる。
「まず、狩りの練習をするならトカゲとか、一番良いのは蝉ね」
「どうして蝉なの?」
コロは不思議そうにナナさんを見る。ナナさんはお姉さんの膝の上で顎を撫でられてた。ご主人はお姉さんと話し込んでいる。
「蝉は普通大きな声で鳴くでしょ?蝉が鳴き止む時は周りを警戒している時なの。だから、背後からこっそり近づく練習に丁度良いのよ。ゆっくり近づいて行って、鳴きやんだらまた鳴きだすまで待って、それを繰り返して相手に近づくの。」
「よし、夏になったら蝉で練習しよう。でも、そんなに僕才能ないのかな?」
やる気になったと思ったら、急に落ち込み出した。
「違うわよ。犬と猫の狩りの仕方が違うからよ。犬は集団で狩りをするでしょ。追いかける役とか、待ち伏せする役とか皆んなで狩るの。」
「そうなんだ。でも、そう考えると猫の狩りの方が優秀なんじゃないの?」
「優秀かどうかは分からないけど、猫は一匹で生きていける様になってるわね。逆にいえば野良で狩りが出来なきゃ死ぬだけよ。」
そう言うナナさんは、お姉さんに抱っこされお腹を撫でられている。今のナナさんには野良を生き抜く力強さは全く感じられなかった。
コロは気持ちを切り替え、ゆっくりとゆっくりと鳩の群れに近づいて行く。時には目線を外し、全く君達には興味ありませんよーとアピールしてみたり。30分程ねばったが、鳩は一定の距離から近づけなかった。
「コロ、もう帰るよ」
ご主人の声で諦めて歩きだす。
「ごめんね。長く話し込んじゃった。早く河川敷に行こうか」
一人と二匹は軽く走りながら向かう。
河川敷に着いたら、ナナさんは素早い動きで草むらの中に入っていく。あっという間に姿が見えなくなった。コロは地面に鼻を近づけて、トカゲを探し始める。コロは真剣な面持ちである。
ガサガサと草が擦れる音が、ナナさんのいるであろう場所から鳴り続ける。一際大きな音がした後、ナナさんは獲物を咥えて出てきた。それを見た瞬間、ご主人は悲鳴をあげて、コロは歓声をあげる。
「ナナさん、ネズミなんか捨てなさい。ぺってしなさい。汚いわよ」
「やっぱりナナさんは凄いや」
ナナさんは自慢げな顔でネズミを逃す。
ご主人は慌てふためき、コロはネズミを追いかけだす。河川敷の一角が賑やかになった。
この後、ナナさんもコロもご主人に怒られたのは言うまでも無い。
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