第11話 新しい芸

「コロ。お座り、待て。」

 ご主人の真剣な眼差しがコロに注がれる。コロも真剣な表情でご主人を見つめる。

「伏せ」

 ご主人の命令に瞬時に従う。

「お手」

 コロは上半身を起こすと、どちらの前足を出そうか迷ってしまう。

「右だっけ?左だっけ?左」

 ヒョイっとご主人の手に乗せる。ご主人はコロの前足を優しく握りしめてくれたけど、間違いだったらしい。

「コロ、お手はこっちだよ。おかわりがこっち」

 ご主人の残念そうな顔を見ると、コロは凄く悲しくなる。だから、コロは芸を頑張って覚えているのだ。

「ごめんよ、ご主人。もう一回、もう一回しよ」

「コロ、もう一回いくよ。伏せ、お座り、おかわり」

「こっちだ」

 迷いなく、しっかりと前足を差し出す。ご主人の笑顔があふれる。

「よく出来ました」

 ご主人に揉みくちゃにされながら、コロは嬉しくて跳ね回る。

「僕って優秀」

「じゃあ、次は新しい芸でも覚えようか」

「やるよ。今の僕は何だって出来るからね」

 やる気満々なコロに、キャットタワーの上からナナさんが言う。

「本当にできるの?」

「大丈夫だよ、ナナさん。サクッと新しい芸覚えるから」

 コロは満面の笑みだ。

「まずは伏せ」

 コロが伏せると、ご主人はコロを抱え込む。

「私が"バーン"って言ったら、仰向けになるんだよ」

 ご主人はコロを持ち上げると仰向けする。

「分かったかな?まずは伏せ。で、"バーン"で仰向けに」

 何度かご主人の手で仰向けにしてもらいルールを覚える。

「じゃあ、本番ね。コロ、お座り、伏せ、待て、バーン」

 そらきたと言わんばかりにコロは体を投げ出す。仰向けになったコロは尻尾をフリフリ笑顔を向ける。

「本当は死んだフリして欲しいんだけど、仕方ないね。コロ、よく出来ました」

 ご主人はコロのお腹に顔を埋めて、コロの身体中を撫で回す。

「ご主人、お腹がくすぐったいよ」

 コロは嬉しい悲鳴をあげた。

 しばらくして、ご主人から解放されたコロは床に寝転がっていた。

「ご主人、喜んでたわね」

 そう言ってナナさんはコロの毛繕いをしてくれる。

「僕、最高」

「はいはい」

 コロはそのまま満足げに眠りに落ちていった。

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