第5話 風呂上がりのあいつ

「さて、どっちからお風呂あがる?」

 コロとナナさんの視線が交差する。どちらが長くお風呂に入っていられるか。これはコロとナナさんにとっては重大な問題だ。少しでも長くお風呂に入っていたい。

「ナナさん、いつもは僕が先にあがってるから、今日はお先にどうぞ」

「気にしなくていいのよ。いつも通り先にあがりなさい」

 二匹の間で見えない火花が散っている。

「一回くらい僕に譲ってくれてもいいと思うな」

「嫌よ」

「今回、お風呂に入れたのは僕のおかげだと思うけどなー」

「ものは言いようね。迷惑掛けただけじゃない。一番の被害者はご主人だけどね」

 ナナさんはチラッとご主人を見る。

「いいのかしら。ご主人も早くお風呂に入りたいんじゃないかしら」

 そう言われてコロは何も言えなくなった。渋々、お湯から上がりご主人に近寄る。

「今度はゆっくり入ろうね」

 ご主人はコロの表情から気持ちがわかっていた様だ。

 ご主人の言葉にコロの尻尾が元気に動き出した。コロの尻尾は水を飛ばしながら、お風呂場から出ていった。ナナさんの不満な声を残して。



 脱衣所ではコロはタオルに身を包まれて、身体中を拭かれる。身体の至る所がサワサワして、こそばゆい。

「ご主人、タオルを置いて。自分で拭くから」

 ご主人に置いてもらったタオルに顔や耳の裏を擦り付けて、乾かす。すると、ご主人があいつを連れてきた。小さいくせに声がデカく、熱い息を吐き出してくるあいつ。

「今日こそは負けないぞ」

 気合充分にコロは威嚇する。あいつの熱い息を顔に受けて牙を剥いた。あいつは身体の至る所に吹きかけてくる。コロは決して怯まず、最後まで戦い抜いたのだった。コロは意気揚々とリビングへと帰っていった。


「次はナナさんだよ。もうあがろうね」

「はーい」

 脱衣所でもナナさんはリラックスしていて、ご主人にされるがまま。

「後はドライヤーです」

 スイッチを入れてナナさんの顔に向ける。

「ご主人、顔はちょっと苦しいわ。できれば背中からかけて」

 ナナさんは顔を背ける。そんなナナさんを撫でながら、ご主人はドライヤーをかけて乾かしていく。

「ナナさんはドライヤーをかけても嫌がらないから助かるな」

「ドライヤーなんてどうって事無いわ」

 ナナさんは自慢げに笑う。

 ご主人は乾かしながら、マッサージもしてくれた。最高の時間を満喫して、ナナさんはリビングへと帰っていった。

 リビングではコロが気持ち良さそうに寝息を立てている。

「僕、やったよ。倒した」

 コロの寝言を聞き流し、キャットタワーに飛び乗ると、ナナさんもゆっくり目を閉じた。

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