第二十四話 つながり
六月十一日 土曜日
「大丈夫か?……その、怖く、ないか?」
シャワーを浴び終えて、バスタオルを身体に巻きつけた状態でベッドに入ると、
風呂場のドアが開く音が聞こえるとさらに心拍数が跳ね上がり、何もしないうちからどうにかなってしまいそうだったが、貴の声を聴いた瞬間、少しだけ気持ちが落ち着いたように思えた。
「うん、大丈夫。でもちょっと怖いかな」
「怖いなら無理しないでいいぞ。元々焦りはなしだろ、おれたちの場合はさ」
そう貴は言って
「ううん、そうじゃないの」
「でもさ」
「電気、つけてもいい?」
更に何かを言おうとした貴の言葉を遮るように涼子は言った。
「え、いいけど。……あ、そうか」
そもそもの恐怖の根源は男の剥き出しになった欲望。そしてそれと共にあった闇だ。それに気付いたのは貴と一緒に風呂に入るようになってからだった。
流石に風呂場では明るさの調整もできず、真っ暗の中で風呂に入ることもできないため、明るい中で様々なことを教わったり体験させてくれたりもした。そこでふと、今までに感じていた不安が薄れていたことに気付いたのだ。
きちんと、はっきりと、貴の顔が見えること。これがどれほど涼子に安心を与えてくれていたのか。
貴は一度ベッドから出て蛍光灯のスイッチを押すと再びベッドに戻ってきた。蛍光灯の光が強い。暗さに慣れた目が少し眩む。程なくしてはっきりと貴の顔が見えてくると、闇の不安は消えたが、どうしようもない羞恥心が疼きだした。
「うん。……でも恥ずかしいね」
今まで何度も貴と風呂に入って、もはや全てを見られてしまっていてもその恥ずかしさは少しも薄れないものだ。
「ま、まぁな」
「なんだかたかの方が焦ってるみたい」
涼子と視線を合わせてからつ、と逸らし、逸らした先が涼子の胸元だったのだろう、貴は涼子の額辺りを見て所在なさそうに言う。
「え、あ、そ、そうね。なんか涼子さん妙に落ち着いてるから……」
「装ってるだけだよ」
その証拠のように涼子の胸の鼓動は相変わらず高まったままだ。貴にまで伝わってしまうのではないかと思うくらいに、耳元でもどくんどくんと脈打つ音が聞こえるほどだ。
「まぁでも、じゃあ始めましょうってのもなんか変だし、これでいいのか」
「たぶんそうだよ」
用意ドン、で始めるから身体も意識も強張ってしまうのだろう。まずはゆっくりと会話をしているだけでも良いのかもしれない。そしてそのまま眠ってしまったとしてもそれはそれで良いのかもしれない。あくまでも自然にそれがあって良いはずのものを意識しすぎてしまっていたから、余計に心身に異常をきたしていたということもあるように思えた。
「こればっかりは百パーセント正解の教科書なんかないからなー」
「だから私達なり、でいんじゃないかな」
学校の授業で教わる程度のことでは何も判らない。お互いにきちんと理解し合っている自分達だからこそ、自分達が知らないところにも二人だけのルールを作って行かなくてはならないのだ。そしてそれはどちらか一方が強引に事を運ぶようでは、貴と涼子の関係では駄目なのだ。
「ま、それしかないしな」
「お風呂入るまでちょっと眠かったけど目、覚めてきちゃった。すごいドキドキしてる」
意を決して涼子は貴の手を取り、自分の胸元にそれを当てた。貴の手が涼子の胸を優しく触る。ぴくん、と頭に突き抜けるような快感が一瞬だけ走る。
「あーおれも……」
「ん」
貴はもう一方の手で涼子の髪をなでると、軽く口付けてきた。
「こういうのビデオだと当たり前なのになー」
「え?」
一瞬貴が何を言っているのか判らなくなり、つい聞き返してしまった。貴と一緒にアダルトビデオを見たのはつい先ほどが初めてだったが、その前には何度か夕香達と見たことがあった。しかし貴の言う当たり前がどういったことなのか涼子には理解できなかった。
「あ、いや明るい状況で、ってのがさ」
「あ、そういえばそうだね」
今まで何度か夜を共にしようと試みた時はいつも暗かったし、それが当たり前だと思っていた。それが仮に当たり前なのだとしても、暗闇が恐怖心を掻き立てる原因の一つであれば、涼子と貴の間では当たり前にしなくても良いことだったのだ。
そんなことすらも判らなかったのだから、今までうまくいかなくても仕方のなかったことなのだろうな、と今の涼子ならばそう思える。
「リアルな話、女は恥ずかしがって嫌がるって思ってたけど、男も恥ずかしいなこりゃ」
「なんか、色々明るい状況でずっと教えてもらってたりしたのに慣れないね」
「慣れないなー。でもま、これはこれで開き直っちゃおうぜ」
「それしかないもんね」
お互いの表情が判りすぎることが当たり前のことなのに、状況が少し変わるだけでこんなにも恥ずかしいものなのだ。キスの直前に目を閉じるのはそういう理由もあるのかもしれないな、と涼子は思った。
「これ、結んでて痛くないの?」
「あ、じゃあ取っとく」
後ろで少し髪を束ねているのは涼子のいつもの髪型だが、確かに結んだ辺りが枕に押し出されているような感じがして少し痛い。寝る時は当然、自然な、何もしていない髪型で寝ているが、この髪型には少し理由があった。だからシャワーを浴びた後でも態々髪を結い直した。
「涼子って昔からその髪型だよな」
「うん、なんか、いつだったかな。小さい頃は逆だったんだよ」
「逆?」
髪を結んでいた髪紐を取って、手櫛で髪を落ち着かせる。元々細く、癖のない髪質なのですぐに落ち着いた。その髪を貴が優しく撫でてくれた。
「うん、お姉ちゃんがロングで私がショートだったの」
「え、それは知らなかったな」
「多分高学年くらいになって、お姉ちゃんはそのころから陸上してたんだけど、長い髪で走るお姉ちゃんに凄い憧れて、私も伸ばそうって思ったんだ」
「なるほど」
以前涼子の振りをして
「記号的な役割もあったんだけど、別にそうしなさいって言われてた訳じゃなかったから」
「あぁロングが晶子ちゃんでショートが涼子、っていう?」
幼稚園、小学校低学年辺りまでは二人で同じ髪形をしていた。両親ですら良く涼子と晶子を間違えていたものだったが、成長するにつれそういった間違いも少なくなり、髪形も変わったせいか最近では全くそういうこともなくなった。それに涼子も晶子もお互いがお互いの至らない部分を補い合っている双子なのだと理解できるようになったからなのか、今では違うことは当たり前なのだと思えるようになっていた。
「うんそう。それで中学に上がったら今度はお姉ちゃんが走るのに邪魔だし、汗で張り付くのが気持ち悪いからってショートにしちゃったの」
「ほぉー。まぁ確かに晶子ちゃんの方がアスリート的なイメージ強いと思うけど、そういうのって髪型で、ってのもあるかもなー」
涼子も高校時代はバレーボール部に所属していたが、晶子は陸上でインターハイにまで出場したことがあるし、今でもジョギングをしている。実績から言っても晶子の方がアスリート的なイメージが強いと感じるのは理解できたし、実際涼子自身もそう思っている。
「でもこの髪型ずっとしてたのは、たか達のライブ行ったときに、たかが褒めてくれたからなんだよ」
「え」
「覚えてないと思うけど」
なんとなく話の流れ的に貴が言ったことだった。ほんの些細な感じで。改めてその髪形が可愛いだとか言われた訳ではないので貴が覚えていなくても無理はないのだろうし、涼子にとってもそれはさしたる問題ではなかったのだ。ただそういった話の流れの中で、特に意識せずに貴が言ったのであればこそ、自然に貴がこの髪形が好きだと思っているのだろうと思い、涼子は貴と会う時はできるだけこの髪形にしていたのだ。その行為は涼子にとってのジンクスでもあった。例え貴が涼子のことを好きではなかっとしても、貴が好きな髪型をすることで少しだけ自信が持てた。
「え、あ、め、面目ない」
「だから、これは私の中でたかが好きな髪形、っていうイメージなんだ」
「うん、まぁ、ホント好きですけど」
つ、と視線を外して貴が照れくさそうに言った。そんな貴を見ると何故か満足してしまう自分も随分と生意気になったものだな、と思ってしまう。
「でも普通に降ろしてる時もたか、褒めてくれたことあってね」
「あ、それは覚えてる」
「そうなんだ」
「多分初めて涼子の髪、触った時」
「あ、正解」
高校二年の春の頃だ。何故だか髪の話になり、
「すげぇ細くてびっくりした。いつもと違う髪型の涼子も凄い新鮮だったんだよ。可愛い子はどんな髪型でも可愛いんだなーって思ったわ」
そう言うものの、そのくせ貴は額を出すようなヘアスタイルをあまり好まない。涼子自身あまり額を出すようなヘアスタイルはしないのだが、一度やった時に涼子は前髪があった方が可愛い、と言われたことがあった。
「すぐ切れ毛になっちゃうんだけどね。お姉ちゃんの方がもう少ししっかりした髪質なんだ」
「へぇ。双子つっても何でもかんでも同じじゃないんだなぁ」
「そうだね。……スタイルも、お姉ちゃんのがいいしね」
昔からの悩みの種だ。料理や裁縫等は涼子が得意で、運動能力や反射神経は晶子の方が優れているのだが、胸は晶子の方があるし、ウェストの細さも晶子の方が細い。中学生になった辺りからその差が顕著に現れるようになり、差は広がる一方だ。もはやこの年では成長も見込めないし、諦めるしかないのだけれど。
「良いか悪いかは涼子に任せるとして、おれが好きか嫌いかっつーのはおれが判断するからいいんだよ、そんなこと」
「……うん」
貴がそう言ってくれるのは救いでもあるけれど、その言葉に甘えてしまっていては、いつか涼子は自分を磨かなくなってしまうかもしれない。貴の好きか嫌いかは貴が判断してくれても全く構わないのだが、やはり女として自分を磨かなくなってしまってはいけないと思う。貴が涼子を好きでい続けてくれているのは、今までの涼子自身の努力も成果も絶対にあるのだから。
そんなことを考えつつ返事をした途端、ぐい、と身体を抱き寄せられて唇を重ねられた。
「な、なんか、前と、違う……」
「そうだな」
震える声で涼子はそう言った。今は貴の指先が心地良いのと、恥ずかしいのが綯交ぜになってしまっている。以前と違うのはそこに恐怖という感情がないことだ。そして自然に貴に身体を預けられていることだった。
「ん!」
「色々と功を奏してるってことじゃん」
涼子の中心に触れながら貴は笑顔になった。自分でも判るほどはしたない有様になっている。貴にとってはそれで満足なのだろうことはなんとなく判るのだが、涼子としては恥ずかしくてたまらなかった。油断すると声が出てしまいそうになる。程なくすると一応貴は涼子の足を広げるように腕に力を入れた。
「そう、だね。や、ちょっと、恥ずかし……」
「あ、ご、ごめ……。おれもちょっとびびってるっつーか、でもいちお、こう、体の位置がね……」
「う、うん」
貴にとっても涼子にとっても初めてのことだ。今まではただセックスという行為に盲目的になってしまっていた。
お互いを想い合って求め合うからこその行為のはずなのに、それができていなかったのだから当たり前だった。そういう意味では涼子も貴と同じく不安な点はある。
「ま、まぁ、とりあえず……」
「いいよ」
貴の中では恐らくまだ拒絶されるのではないかという恐怖心は払拭されていない。涼子も完全に大丈夫だとは言い切れない。でも、だからこそ、今度は涼子が貴を安心させてあげなくてはいけない。今までも、そして今も貴は涼子をリードしてくれているが、貴も女性経験はない。判らないことがあるのは当たり前だ。涼子はできる限り穏やかに口を開く。恥ずかしさを押さえつけて、足を開くと貴がそこにす、と入ってきた。
「……ちゃんとおれの目、見てろよ」
「うん」
つ、と視線を上げて貴の目を見る。
「……見開かれても怖いですが」
「あ、う、うん、そうだね。でも、もうちょっと近付いて」
「ん」
覆いかぶさる様に貴は涼子に近付く。涼子は頭を起こして貴の唇に口付けた。
「……」
唇が離れても貴は涼子から視線を外さなかった。恐らく、今の涼子の状態を貴なりに分析しているのかもしれない。
「判ってる」
一度頷いて涼子は貴の無言の問いに応えた。視線は外さない。ただ目の前にいる最愛の人を信じるだけだ。
「ならいい」
貴もそれに答えるようにゆっくりと言う。
「……!」
ゆっくりと、少しずつ、身体を貫かれてゆく感覚。若干の鈍痛。しかし恐怖感はない。体のどこにも震えはない。不快感がこみ上げてくることもない。ただ貴の熱い体温と眼差しはしっかりと感じられる。
「涼子」
「うん」
優しく自分を呼ぶ声も、今はしっかりと聞こえる。それにしっかりと応えられている自分が嬉しい。
「涼子」
「うん」
もう一度貴が涼子の名前を呼んだ。涼子も同じくもう一度返事をする。
「……」
貴は優しい笑顔を涼子に向けてくれている。安堵しているのと嬉しいのとで滅茶苦茶になっているような笑顔だ。
涼子もその笑顔を見て安心感を覚える。少しの痛みと言い知れない快感が少しずつ涼子を包む。
(好きな人に抱かれるって、こういうこと、なんだ……)
幸せな気持ちで満たされる。
与えて与えられて、求めて求められる。それにやっと順応できた。心も身体も高揚して行くのが判る。
涼子が思っていた浄化される、というイメージそのままに。
貴には悪い気もするけれど、やはり涼子はこれでやっと、正真正銘貴の女になれたのだ、と確信する。
目に見えない充実感と満足感、そして幸福感と快感が涼子の意識を支配する。
「もうちょっとだけ、このままでいて」
貴の背に腕を回して力一杯抱きしめる。僅かに残る鈍痛が治まるまで、このままでいてほしかった。
「あぁ」
涼子の意図を理解してか、貴は囁くように言った。
「あー……」
ことを終えてもう一度シャワーを浴びると、二人はベッドに戻った。貴は突然呆けたような訳の判らない声を上げた。
「な、何?」
「あーあーあー……」
貴に抱いてもらえた気恥ずかしさと嬉しさで涼子も平常心ではないと思うが、貴のこれは少し異常だ。貴は奇妙な声を上げながら寝返りを打つと、涼子に背を向けた。
「どうしたの?」
「あーあーあーあーあー!」
敷布団に顔をうずめているのか、くぐもった声が続く。
「ちょっと貴……」
貴が更に意味不明な言葉を上げるので、涼子は腕を伸ばして貴の頬を軽く抓った。
「涼子さんとエッチしましたぁ!」
「や!ちょっとそんな大声で!」
何を言い出すかと思えば、である。叫びだすほど嬉しいと思ってくれているのは涼子にとっても嬉しいが、外に人がいたら確実に聞こえてしまうくらいの大声だ。時計の針はとうに二時を回っている。
「世界中の人に言い触らしたい!」
「だ、だめ!」
貴の頬を抓った手で慌てて貴の口に手を当てるが、手のひらをべろりと舐められて思わずその手を引っ込めてしまった。
「ひぃっ」
「あーあーあー!」
「もぉー!」
貴の身体の下に腕を入れ、もう一方の腕は上から回し、自分の手と手を掴んで力一杯抱きしめる。まだ完治していないであろう胸の辺りを、もはや抱きしめるというレベルではなく締め上げるように。
「いぃでででででぇ!」
「たかがばかだからいけないんですぅー!」
すぐに貴を開放すると、べ、と舌を出して涼子は笑顔になった。貴は再び寝返りを打って涼子に向き直った。
「はー……。死んでしまうかと思うくらい気持ち良かったです」
「……」
きっとそれは本当のことなのだと信じることができる。これは涼子を気遣い、涼子に感謝を伝えるための言葉だ。そう涼子は直感した。だからきっと貴の言うことは真実なのだと思えた。
涼子が貴に与えてあげられたからこその貴の言葉なのだと信じられた。
「ほんと、気持ち良かった」
貴が果てる時の顔はとても愛おしいと感じた。
涼子の身体と、気持ちと、快楽に混濁し、譫言の様に涼子の名を何度も呼んでくれる貴を、力いっぱい抱きしめて、涼子もまた心の底から貴の気持ちに応えた。その顔を涼子が引き出したのだ、と自信を持って信じることができた。
「……うん」
涼子も貴の言葉に頷いた。
「涼子も?」
「うん……」
痛みは少しだけあったけれど、心身ともに気持ちが良かったのは紛れもない事実だ。好きな人に抱かれるということを、本当の意味で実感できた。
身体的な快楽は付加的なものだとは言わない。男性的には性欲を処理する行為だという背徳的な気持ちもあるのだろう。けれどもそれだけではない。愛しい人に抱かれるからこその快楽なのだと思えたし、何よりも気持ちが通じ合っていることがその快楽を生んでいるのだ、と思えた。
「そいつは良かった!」
「やっぱり……。ああいうのが本当だよね?」
あの事件は何でもないことなのだ、とやっと思うことができた。本当の意味で繋がること。その意味を知った今の涼子はきっと過去に脅えることも無くなるだろう。全ては貴が全身全霊をかけて与えてくれたことだ。
「あったりまえじゃないですか」
自信満々に貴は笑顔で言う。その笑顔が涼子を安心させる。
「初めての人はたかでいいんだよね?」
「あったりまえじゃないですか!」
声を高くして、貴は同じことを繰り返す。涼子が心の底から欲した答えだ。涼子は貴に抱かれることであの事件の呪縛から開放された。恐らく、貴も同じではないのだろうか。涼子を抱いたことで、貴も過去の呪縛から解き放たれたのではないだろうか。そう思えてならない。
「ま、初めてもなんもないんだけどなー」
「え?」
「最初で最後の人だから。オンリーワン!ミ・ズ・サ・ワー!」
「……うん」
子供じみたはしゃぎ方ではあるが、心底嬉しい言葉だった。後にも先にも涼子の相手は自分だけだ、と言ってくれているのだ。
「言っとくけど、おれもですから」
「あ、う、うん……」
「おれもですから!」
「わ、判ってるってば」
「オンリーワン!マ・イ・カ・ワー!」
貴の相手も涼子一人だけだ。貴はそう言っている。こんな貴を見るのは随分と久しぶりだったかもしれない。
「あ……」
「ん?」
「ううん、なんでもない」
やっと気付くことができた。元々涼子が大好きだった貴はこの貴だ。涼子のことを必死に考え通して、涼子を常に思ってくれている貴は勿論大好きだけれど、言ってしまえば稚気に溢れている貴こそが
「気分的な問題だけなのかもしれないけどさ、今のおれ達ってやっぱ何か変わったよな」
「私もそう思う」
お互いに呪縛から開放されたからこそ、お互いにそう思える。もしもあのまま別れずにセックスレスを続けていれば、やはり二人の関係は破綻していただろう。
最初から無かったことにはできない問題だということは判っていた。貴も涼子もその考えを捨てなかったからこそ、今こうして二人で一緒にいられるのだ。
今こうして幸せを感じることができるのだ。
「うひひ、あー照れくせー!」
「は、はずかしいね」
ばふ、と枕に顔をうずめた貴がくぐもった声でそう言った。涼子も同じようにして貴に応えた。
「でも……これからも宜しくね、前向きな水沢君」
「……ん。こちらこそ」
第二十四話 つながり 終り
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