第10話『証明写真を撮りに行く』
巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
010『証明写真を撮りに行く』
……ブラウスだけにしとく。
そう言うと、お祖母ちゃんは上着とボータイを紙袋に入れてくれる。
「そうだね、フル装備は入学式までとっておこう」
「うん、一式持つとけっこうな量だからね……じゃ、言ってきます」
ブラウスの上にカーディガンひっかけ、下駄箱の上のローファーに―― キミも入学式の本番でね ――と一撫でして、いつものスニーカーを履く。
「ってらっしゃい……」
半身で手を振ってキッチンにとって返すお祖母ちゃん。
糠漬けをするんだって夕べから張り切ってたんだけど、新品の制服にニオイが移っちゃいけないって待ってくれていたんだ。
コンクリの『M』の標を確認して一歩踏み出すと『戻り橋』が現れる。
いちど写真に撮ろうかと思ったけど、あっちの世界に行くのを見られるわけにはいかない。
お祖母ちゃんの話だと、橋を渡っている最中は次元の狭間だとかで、人には見えないらしい。
橋が現れて、橋に足を掛けるまでのコンマ何秒かが人に見えてしまう。だから、ノンビリ写真を撮るのはNGなんだ。
ゴーーーー
ダムの上を渡ってんのかという感じの時の流れる音には、まだ慣れない。
そそくさと渡って1970年に足を踏み出す。チラっとだけ『G』の標を見て歩道を歩く。
前回は、慣れなくって、ちょっと探したからね(^_^;)。
荷物少なくしてよかった。
もうババキャリーを引っ張っていくわけにはいかないしね。
最初は、上から下まで制服を着ていかなきゃならないのかと思った。
で、よくプリントを読むと―― 証明写真なので上着とブラウスとボータイだけでよい ――と書いてあった。
そうだよね、上半身だけなんだし、ベストとスカートとローファーまで紙袋に入れたら、けっこうな量だよ。
といって、上から下まで制服というのは抵抗がある。
入学式もまだなんだからね。
ほんと言うと、上着やブラウスも入学式にお初にしたかった。
だいたい証明写真て、学校でまとめて撮るもんだ。そうすれば、生徒も写真屋さんも手間が省けるのに。
―― 明日も待ってる めぐみ ――
切符を買おうと自販機に並ぶと伝言板のメッセが目に入る。
こないだも有ったよね―― 明日も待ってる めぐみ ――ってさ。
物品販売の時はキャリーが気になって見てなかったけど、あの時もあったのかなあ。
『めぐみ』って、メッセを書いた人? それとも伝えたい相手?
「ちょ、空いたよ」
「あ、すみません(;'∀')」
急いで切符を買う。
ンガーー
大げさな音がして切符が出てくる。インクが手に付かないように、両端を挟むようにして切符を持って改札へ。
注意した人が追い越していく。
あ!
乗り越し運賃で駅員さんに怒られてたやつ。
ひょっとして、宮之森?
いや、物販じゃ見かけなかったし。
ああ、マジマジと人を見ちゃダメだ(^_^;)。
茶筒の檻!
電車のガックンガックンをいなしながら景色を見ていると、例の茶筒の檻が見えてくる。
え…………檻だけで茶筒が無いんですけど!?
茶筒のやつ、脱出に成功した!? っていうか、なんなのよあれ!?
あれは、なにかのカプセルで、あれがパッカーンて割れたらガンダムとかエヴァ初号機的なものが飛び出していくとか!
パシャ
誘惑には勝てないで、スマホで撮ってしまう。
ウ……前に座ってるオバサンが非難の眼差し……と思ったら、バッグからコンパクト出してファンデのノリとか確かめた。
そうか、わたしのスマホを手鏡だと思って、今朝のメイクが気になってコンパクトで確かめた的な?
宮之森城は、やっぱり見えない。
あっという間に宮之森。
軍艦マーチと三波春夫に迎えられ、早くも慣れた放置自転車を器用にかいくぐって商店街の写真館。
「ああ、制服なら撮影用のがあったんですけどね」
にこやかに応対してくれたマスターがカーテンを開けると、各種サイズの制服がキャリーハンガーにズラリ。
そういや、七五三の衣装も揃えてたよね。
ブラウスなんか、ボータイを縫い付けた前半分だけのがあったりして、至れり尽くせり。
こういうサービスがあるんなら、ちゃんと書いておいて欲しいんですけど。
癪だから、自分の上着とボータイで撮った。
撮り終えて、写真の仕上がりは明後日と聞かされて、またビックリ( ゚Д゚)!
証明写真て、プリクラみたく、その場で出てくるもんだと思ってたし。
☆彡 主な登場人物
時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校一年生
時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
宮田博子
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